悪夢の果て 1
するどい切れ長の目。
筋のとおった、かたちのよい鼻。
そして絹糸のようにサラサラの髪の毛。
とびらを開けたのはタクミくんでした。
「タクミくん! どうしてここに!?」
「はは、悪魔に時間停止なんて効くワケないだろ」
タクミくんは教室に入ると、教壇に立ち、わたしたちを見下ろしました。
「いきなり時間がとまったから、おどろいたぜ。ま、それ以上にアリナがおれと同じ悪魔だってことのほうが、おどろきだけどな」
「おれと同じ……じゃあ、タクミくんも――」
「ああ、悪魔だよ。おまえらのいう、たましいを入れ替えていた犯人ってのは、おれのことさ」
タクミくんは教壇をおりて、たおれた大土先生のもとへ行きました。
「なにからなにまでウサギちゃんの推理どおりさ。オッチーのからだに入ってたのは、宿主の記憶と人格をコピーした、おれのたましいの一部だよ」
タクミくんが胸をトントンとたたきます。
「かんたんにいうけど、一部でもたましいを削るのって大変なことなんだぜ。文字どおり命を削る作業だからさ、魔力も体力もヤバイのなんのって。体育のときにたおれたのも、まえの日に3組の女子を家族にしたばっかで、からだがヤバイ状態だったからなんだよ」
「なぜ、そこまでする必要がある」
先生がたずねます。
「どうして、そこまでして、みんなのたましいを入れ替える必要があるんだ」
「おれはただみんなと家族になりたいだけだよ。イジメもしない、差別もしない、そして絶対に裏切らない。そんな最高なやつらと家族になりたいだけさ」
そういった直後に、
「こいつと一緒でな」
タクミくんが大土先生の背中をふみつけました。
「教えてやるよ。こいつは本気で生徒と家族になりたいと思ってた時代遅れの熱血教師なのさ。そんなやつだから生徒にも教師にもウザがられて、学校で孤立してたところを、おれがのぞみどおり『家族』にしてやったってわけさ」
タクミくんは、おもしろいマンガの話でもするように、笑いながら大土先生の過去を語りました。
「こいつには特別に、おれと同じ力をあたえてやったってのによ。ったく、つかえないやつだぜ」
そういって、タクミくんは大土先生の頭につばを吐きました。
「ひどい……タクミくん、ひどすぎます」
「ははは、悪魔のいうセリフとは思えないな。そうだ、せっかくだから教えてやるよ。岩根タクミってのは、学校で生活するためのウソの名前さ。おれの本当の名前はベルニエだ」
タクミくん、いいえ、ベルニエが手を広げます。
「なあ、アリナ、おれの家族になれよ。おまえは悪魔だろ? だったら、そんなやつのところにいないで、おれのところにこいよ」
誘いの言葉はさらに続きます。
「アリナ、おれと一緒にたくさん家族をつくろうぜ。学校中の、いや、もっともっとたくさんの人間をおれたちの家族にするんだ」
「タクミくん……」
「ただし条件がある。そいつを始末しろ」
ベルニエが、あごで先生をさします。
「そのウサギと家族になる気はない。そいつを始末して、首でももってこい。それが家族になる条件だ」
たしかに悪魔の力があれば、ぬいぐるみを引きちぎるなんて、かんたんなことです。
それは先生だってわかっているはずです。
でも先生はわたしのほうを見ず、ベルニエに魔導筆を向けています。
もしかしたら――それがたとえ0.1%の確率でも――襲ってくるかもしれないわたしのそばから、先生は動こうとしないのです。
――先生はわたしを信じている。
――わたしのことを信じているから、はなれようとしないんだ。
先生はこころから、わたしのことを信じてくれている。
だからこそ、わたしはベルニエに、こういえることができました。
「たしかに、わたしはあなたと同じ悪魔です。そういう意味ではあなたのいったとおり、わたしたちは仲間です」
「そうそう。だから――」
「でも、わたしには仲間以上に大切な家族がいます。人間の家族がいます」
わたしはほとんど魔法がつかえません。
できることより、できないことのほうが多いです。
でも、そんな悪魔のことを太陽だといってくれる人間がいます。
バージンロードを歩く約束をしてくれた人間がいます。
それが、わたしの大切な人間の家族です。
「種族がちがってもかまいません。わたしには人間の家族がいます。こころでつながった大切な家族がいます。だから、あなたと家族にはなりません」
「……おれの誘いを拒否するってことだな?」
「そうです。わたし、こころを縛るような人と家族になんかなりたくありません」
「そっか。イヤだってんなら、しょうがねえな」
頭をかきながら、ベルニエがためいきをつきます。
そして、つぎの瞬間、
「なら、むりやりでもしてやるよ!」
いきなり、わたしたちに襲いかかってきました。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。




