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【12話】真実の糸 6


「だから、おまえも家族になるんだ!」


 あやしく光る大土(おおつち)先生の右手。


 そこから出た糸が、わたしのからだに巻きつきます。


「うぅ……」


 クモの糸がからだをめつけます。


 動けない。


 ほどけない。


 苦しい。


 骨がきしむ。


「殺しはしない。だが、からだはもらうぞ」


 大土(おおつち)先生が糸をたぐりよせます。


 1歩、2歩、3歩。


 からだがどんどん引き寄せられます。


 糸を引きちぎろうとしましたが、(ごく)(ぶと)の糸は(かた)くて、わたしの力ではどうすることもできません。


日向(ひなた)、おれたちの家族になるんだ」


 大土(おおつち)先生の左手が、わたしの口にのびました。



 ★  ★  ★  ★



 絶体絶命(ぜったいぜつめい)……。


 いいえ。


 大逆転のチャンスです!


「いまです、先生」


 開け放したかばんから、白い影が飛び出しました。


 白い影の正体。


 それは(ふう)()(たん)(てい)月読(つくよみ)ソウマでした。


(ふう)()(じん)・ゴセイ」


 光り輝く⛤の陣形(かたち)


 先生は、それを大土(おおつち)先生の背中にたたきつけました。


「うおぉぉぉ」


 大土(おおつち)先生がくるしそうに床を転がります。


日向(ひなた)、きさまぁ!」


「いいましたよね、『いま、この学校で意識があるのはわたし()()だけ』って」


 そうです。わたし()()のなかには、カバンのなかに隠れていた先生もふくまれていたのです。


「ああ……ああ……」


 絶望のなかで、大土(おおつち)先生が、ふたたび口を開きました。


 しかし、糸は出てきません。


 代わりに口から出たのは、だ液がべっとりついたクモでした。


 背中に⛤が(きざ)まれたクモは、大土(おおつち)先生と同じように(あし)をバタバタさせて、くるしそうにもがいています。


 けど、それもすぐにおわりました。


 足元に黒い穴が開き、8本脚のちいさな悪魔はそのなかに沈んでいったのです。


 ふうじん・ゴセイ。


 魔物や悪魔を封印させる力をもった、(ふう)()(たん)(てい)の切り札ともいえるほうじんです。


「おわった……」


 緊張が一気に解き放たれて、肩から力が抜けました。


 黒霧(くろぎり)中学校を支配していた悪魔は、もういなくなった。


 その証拠に、わたしのからだをしばっていた糸は、あとかたもなく消えてしまいました。


「やりましたね、先生」


「おかしい」


「先生?」


 先生は、気をうしなった大土(おおつち)先生をじっと見ています。


「アリナくん、彼はこの事件の犯人じゃないよ」


「え?」


 大土(おおつち)先生が犯人じゃない? 


 わたしは先生の言葉が信じられませんでした。


ふうじんは人間には効果がない。もし彼が悪魔なら、肉体ごと封印されるはずだ。けど、彼はこうしてこの場にいる。それこそ彼が人間であることの証明さ」


「でも実際に封印したじゃないですか。わたし、ちゃんと見ましたよ。口から出てきたクモが穴のなかに沈んでいくの」


「ぼくもたしかに見た。けど、もしかしたらあいつは、この事件の犯人じゃなくて、犯人のたましいの一部なのかもしれない」


「たましいの一部?」


「うん。犯人は自分のたましいの一部をけずり、それを大土(おおつち)先生たちのからだに入れて、彼らをあやつっていたんじゃないかな」


「じゃあ、入れ替わった人たちのからだには、みんな、あのクモが入ってるんですか?」


「おそらくね。鑑定で一致した魔力は大土(おおつち)先生ではなく、犯人のものだった。けずった一部とはいえ、もとは同じ悪魔のたましい。魔力が一致するのは当然さ」


 時間がとまっている限り、からだのなかにたましいがなくても大土(おおつち)先生は死にません。


 でも、それにも限界があります。


 もし魔法の効果が切れて、時間が進みはじめたら、たましいのない大土(おおつち)先生のからだは時間がたつにつれて、(くさ)りはじめてしまいます。


 そして、もし完全にからだが(くさ)ってしまったら……。


 たとえ、たましいがもどってきても、大土(おおつち)先生が息を吹き返すことは二度とありません。


「もうひとつ気になるのは、彼がいっていた『おれもあいつも、またひとりにもどってしまう』という言葉だ」


 そうつぶやく先生は、穴があくほど大土(おおつち)先生の背中を見つめています。


「あいつ……あいつとは一体だれのことなんだ」


「おれのことだよ」


 いきおいよく開くとびら。


 その向こうにいたのは、わたしの知っている人物でした。



(つづく)



更新は毎日おこなう予定です。

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