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新宿  作者: 竹仲法順
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第90話

     90

 2017年5月29日午前9時25分。休憩が終わり、月井と今村が歩き出す。月井はタブレットを見ながら、情報の整理をしていた。岡田社長が何者かによって後頭部を殴打され、死体となって発見されて、そこに高木梨帆のDNAが残っていたこと。この事実は動かしにくいぐらい大きい。事件発生時、部屋は密室だったという。一体誰が岡田を殺害し、その濡れ衣を高木に着せたのか?気になる。

 月井には謎解きというのが昔から苦手だった。デカになってからも、その性癖は抜けない。まあ、それならそれで警察官の職業も務まるのだが、悔しいと思うこともあった。ミステリー小説とか、本格推理ドラマなどをあまり読んだり見たりしなかったからか、月井にはそういった謎を解くという力が決定的に不足していた。

 刑事になった動機は純粋に憧れたからだ。捜査などに興味を抱いたというわけでもない。それに警察官は、実質3K労働である。階級が上がれば幾分楽なのだろうが、下の地位にいる以上、自分たちは単なる使い捨てのコマに過ぎない。刑事に個性はあっても、それは捜査過程上では削り取られる類の事象である。

 午前10時を回ると、部屋は夏の陽気でむっと暑くなった。月井と今村は二人一組で室内を見ていく。単に目の前に広がるのは、新宿の各所にあるビジネスホテルの一室の光景で、目立った物は特にない。月井は立ったまま、タブレットを見ながら、キーを叩く。事件に関する情報の整理などに追われて暇がない。それに警察官は探偵稼業をやるのではなく、あくまで公務員として、その職務をこなすのが優先だ。

 午前10時26分。時間を気にしながらも、月井は手元の画面で作業を続けた。今村はそれを見るともなしに見ている。そして思った。多分、月井巡査部長も推理なんかは、超が付くほど苦手なんだろうなと。実際、部屋のど真ん中にいる蓜島巡査部長は、月井の鈍重ぶりに呆れていた。個の強い刑事なんだろうと思う。半ば性分のようなもので。(以下次号)


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