第89話
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2017年5月29日午前7時25分。月井たちは岡田徹が殺害された現場であるビジネスホテルに着き、一階から入っていって、惨場となった客室に行く。辺りを見渡した後、室内にエアコンが利いているのを感じながら、同行していた捜査員と話をした。
「ここで岡田社長が後頭部を殴打され、殺害されてたんです」
現場の捜査員の一人で、月井の一課の同僚の蓜島がそう言う。蓜島は階級が巡査部長で、ずっとここに張り付きながら、事件を追っていた。月井も今村も頷き、月井の方が、
「高木梨帆の毛髪が落ちていたのは、この室内なのですね?」
と問う。蓜島が、
「ええ。おそらくここにDNAが残るきっかけが何かあったんだと思います」
と言い、軽く息をついた。月井が正面を見据えながら、考え込む。第三者のDNAが落ちて残っていたわけが何かあるはずだ。長考となりそうだった。だが、現場は待ってくれない。蓜島が別の捜査員と話をしながら、合間にスマホや無線などでも絶えず外部と連絡を取る。
午前8時2分。月井が室内を物色しながら、岡田と高木の関係などを考えて悩む。今村が、
「月井巡査部長、細かいことばかり気にしてないで、先に進みましょう」
と言い、息をつく。月井が翻意し、蓜島や他の捜査員に付いていった。自分の思考が鈍重で泥臭いことは分かっている。だが、それが警察官の本質だと思う。確かに時間の限られた現場での捜査は慣れてない分、抵抗があった。
午前9時1分。いったん休憩となり、今村が月井に近付いていく。買っていたブラックの缶コーヒーを一缶手渡した。そして、
「私も刑事ですが、本格的な事件捜査には慣れてませんから、幾分戸惑ってます」
と本音を漏らす。月井が缶のプルトップを捻り開けて飲み、黙ったまま頷いた。殺人現場となったこの部屋だけで、かなりの量の情報がある。それを一つ一つ、的確に整理していく。月井は持っていたタブレットに打ち込み始めた。記録代わりである。手帳などに記すのと全く同じで。(以下次号)




