第73話
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2017年5月27日午後2時3分。月井たちは街を歩きながら、人ごみに紛れ込む。雑踏は蒸すように暑い。互いに体力・気力の限界は分かっていた。それに月井は警視庁のデカで、見張りなどのプロだから、今村も素直に気持ちを預ける。
辺りは繁華街だ。警察手帳や銃器などを持っていても、危ない場所である。人の流れは絶えない。新宿の街が脈打つ。いろんな空気が紛れながらも……。
月井も街に慣れてしまっていて、気に掛けることもないと思っていた。時折タブレットを取り出し、ネットに繋いで事件に関する情報を集めている。今村も傍で見ながら、月井の要領のよさを感じ取っていた。警察官の鑑のような人間だと思う。
午後3時になると、月井が、
「今村巡査部長、少し休みましょう」
と言って近くのカフェへと向かった。入っていき、奥の座席に座ってウエイターにアイスコーヒーを二杯頼む。そしてタブレットに向かい、キーを叩き続けた。
「何か調べてるんですか?」
今村の言葉に、月井が軽く顔を上げ、
「ええ、私もさすがに今回の殺人事件の経緯が気になって、情報を整理してましてね」
と言う。それからまた画面に見入り、キーを叩いた。二人分のコーヒーが届くと、各々ミルクとガムシロップを入れる。しばらく無言が続く。月井が口を開き、
「どうやら岡田社長を殺害したホンボシはかなり逃げてますね。……どこか遠くに身を隠してる可能性が高い」
と言って、軽く息を吐いた。
「まあ、殺人犯が遠方に逃亡を図るのは極めて当たり前ですけどね」
「捜査は思うように進んでません。……長期戦になりそうですから、頑張りましょう」
「ええ」
今村が頷き、冷たい液体をストローで吸い取る。月井もコーヒーを呷りながら、力と英気を蓄えた。互いに席を立って行こうとしたその時、月井のスマホが鳴り、岸間から捜査本部に戻るよう連絡が入る。了解し、その足で新宿山手署の方向へと向かった。外は暑い。汗だくになりながら歩く。署内は喧騒に満ち溢れているのが普通なのだが、その時は静まり返っていた。刑事たちの労苦が続く。ずっと。(以下次号)




