第62話
62
2017年5月26日午後1時15分。月井と今村は新宿の街を歩きながら、人の流れを見ていた。ランチ店などから、ビル街へと人が集中し出す。またしばらくはこのままの状態だろうなと思い、街を歩き続けた。
新宿でも歌舞伎町は危険な場所だ。月井は日々その空気を吸っているから、慣れているのだが、普通は一人で行くところじゃない。警視庁捜査一課や新宿山手署刑事課、それにお台場署刑事課の捜査員による岡田徹・高木梨帆連続殺害事件の捜査は、執念の局面を迎えていた。月井も単独でヤマを追っているわけじゃないのだが、何かと疲れてしまう。
今村も横顔はくたびれている。それは十分分かっていた。月井は時折立ち止まり、抱えているタブレットに情報などを打ち込んでいく。通常の警察官が手帳にメモをするのと同じ要領だ。月井も紙にボールペンというのは苦手である。IT機器を使い慣れていた。
通りを歩きながら、無線で他の刑事たちの動向を把握する。皆、自分の持ち場で必死だった。月井たちも同じで暇がない。
品川の帝都物産本社にいる志村浩にも捜査員の手が伸びているのは間違いなかった。だが、月井も今村も志村には目もくれない。ヤツは白だ。率直にそう思っていた。単に現場からたまたま少量のDNAが出てきただけで、今回の殺人事件の容疑者扱いするのは筋が違うだろう。現時点で月井たちもそう感じているのだった。
午後2時3分。街を歩きながら、スーツやシャツが汗まみれになる。目の前の状況は変わりない。相変わらず新宿の人ごみに紛れ込む。疲れていたのだが、警察官は過酷な労働が基本だ。月井も今村も互いにそう思い、やっていた。堅気の仕事は大変である。上下とも格好は決まっていても、やっていることは、ほぼ日雇いに近い。本来なら、もっとハイステイタスな仕事をしたいと思う。だが、そうもいかない。正直言って苦しいところなのだが……。(以下次号)




