第41話
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2017年5月24日午前8時5分。月井と今村は歌舞伎町の一角に来ていた。朝の新宿は排気ガス臭や、前夜エアコンなどで屋内を冷やされたことによって発生する放射熱で、一種地獄の様相だ。だが、街を張り続ける。岸間が命じた通り、街に居続けた。
辺りは人が多く、明け方の騒がしさもある。確かに疲れるのだ。ここは人種のるつぼで、いろんな国籍の人間がいる。風俗店やクラブなど、外国人が控えている場合が多い。別に月井も今村も、そういった盛り場の事細かい様子などは気にしてなかった。不法滞在しながら、勝手に金を稼ぐ外国人女性のことなどどうだっていい。
岡田が殺害され、高木も消されてから時間が経っている。警察の全体的な捜査状況も鈍い。月井は常に不満を感じていた。これじゃ警視庁も舐められると。だが、今個々の警察官がやっている捜査が限界なのだろう。実際、深く入り込んだことは出来ない。
目抜き通りは人で溢れ返っている。人口集中地帯だから当然だ。月井が、
「我々も振り回されてますね」
と言うと、今村が、
「月井巡査部長はこんなまだるっこいヤマに遭遇したことはありますか?」
と訊いてきた。
「いえ。普段から単なる街の見回りですからね。刑事事件捜査で都内全域回ってるわけじゃないですし」
「ここに慣れておられますよね?」
「慣れてはいるんですが。……疲れます」
「警察官は個人プレーが奏する職業じゃないことを分かっておられるんですよね?」
「ええ。……ですが、私はどうしても個人技の方が得意です。地味で鬱陶しくなくて」
「……」
一瞬今村は黙り込んだ。そしてまた前を見据えながら歩く。月井が、
「ところで今村巡査部長、両角一課長の武勇伝はご存知ですか?」
と訊いた。
「ええ。一課長は巡査からスタートしたノンキャリアのデカですからね。若い頃は〝鬼の両角〟として、警視庁内外で恐れられた警察官ですよ」
「徹夜で事件捜査することが多かったらしいですから。……叶いませんよね」
月井が重たげに息を吐き出す。顔を上げて歩を進めながらも、いろいろ考えているようだ。両角の武勇伝は警視庁の捜査員なら皆知っている。もちろん昔の刑事だから、事件捜査するにしても地味で、靴底をすり減らすタイプのデカだったようである。さすがに月井も今村も見習えと言われても、見習えない感じだったが……。
午前9時15分。月井たちは街を張り続けた。同時に、ビジネスホテルの一室で岡田を殺害したホンボシのDNAが出てくることを願う。離れた場所でいくら懇願しても始まらないことだったが……。(以下次号)




