特別番外編十一 次の種
養成院の庭には、小さな畑がある。
救助具師の学校に畑は不要だと、最初は誰かが言った。
しかしミナが「薬草を育てます」と言い、サヤが「日除け布の試験に使える」と言い、マルタ隊長が「土嚢の詰め方を教えられる」と言い、結局、畑は正式な実習設備になった。
春、エラはそこへ木苺の苗を植えた。
「食堂用ですか」
コレットが尋ねると、エラは首を振った。
「半分は食堂用です。半分は、待つ練習用です」
「待つ練習」
「すぐに実がならないので」
その答えに、コレットは笑った。
救助具師は急ぐ仕事だ。
しかし、すべてを急いでよいわけではない。
苗は急がせても伸びない。糸も、強く引きすぎれば布を歪ませる。人の成長も同じだ。
ユリスは畑の札を書いた。
『木苺。踏まないこと。水をやりすぎないこと。実がなる前に食べようとしないこと』
リネットがそれを読んで言った。
「食事機能のある植物ですか」
「植物は食事機能というより、食料生成機能ですね」
ユリスが真面目に返した。
リネットは記録した。
『木苺、食料生成機能あり。過剰な水は危険』
その記録は、なぜか園芸係に好評だった。
夏の終わり、最初の実がなった。
ほんの数粒。パイを作るには足りない。
生徒たちは少し残念そうだったが、食堂長は言った。
「最初の実でパイを作る必要はありません」
「では、どうしますか」
「種を取ります」
赤い実から、小さな種を残す。
食べる楽しみを少し先へ延ばし、次の苗にする。
エラは種を見て言った。
「小さいですね」
「最初は何でも小さいです」
コレットは答えた。
「欠席届も、一枚の紙でした」
「それが養成院になったんですか」
「私一人ではありません。でも、最初の一枚ではありました」
エラは種を小さな紙に包んだ。
「では、この種も何かになりますか」
「育てれば」
「育てます」
彼女は真剣だった。
その年、木苺パイは作れなかった。
翌年も、実は少なかった。
三年目に、ようやく食堂で小さなパイが焼けた。
生徒たちはそれを分け合った。
一人分は小さい。
けれど、全員が少しずつ食べた。
コレットはその味を確かめ、微笑んだ。
王城の厨房で食べたパイとも、養成院の食堂長が焼いたパイとも違う。
少し酸っぱく、少し青く、でも確かに木苺だった。
「まだ若い味ですね」
ノアが言った。
「ええ」
「嫌いですか」
「いいえ。次が楽しみな味です」
畑の隅には、次の苗が伸びている。
白い型紙のように、まだ何になるか分からない枝がある。
物語の終わりに必要なのは、すべての実を食べ尽くすことではないのかもしれない。
いくつか種を残すこと。
次の人が植えられるように、場所を空けておくこと。
コレットは木苺の種を一粒、紙に包んだ。
表にこう書く。
『次の種。急がせないこと』
その紙包みは、母の針箱の隣に置かれた。
糸と種。
どちらも小さい。
どちらも、手をかけなければ何にもならない。
だからこそ、未来に似ている。




