特別番外編七 王都日報の余白記事
エミール・ガント記者は、救助具師養成院の開校式を記事にするにあたり、三度見出しを書き直した。
一案目。
『欠席令嬢、王国教育を縫い直す』
悪くない。読者の目は引く。だが、少し大げさだ。編集長は「売れる」と言ったが、エミールは首を振った。
二案目。
『人形夫人の学校、ついに開校』
これは即座に捨てた。昔の彼なら使ったかもしれない。分かりやすく、派手で、少し奇妙で、読者が買う。しかしリネットは少女ではなく救助具で、コレット夫人は人形夫人ではない。
言葉は売れる形にすると、本人から少しずつ離れていく。
三案目。
『手順を学ぶ子どもたち――救助具師養成院、開校』
地味だ。
しかし、式典の空気にいちばん近かった。
エミールはその見出しを採用した。
記事を書くため、彼は一日中、養成院を歩いた。
派手な場面を探す癖は残っている。大きな救助具、王太子、辺境伯夫妻、動く人形。絵になるものはいくらでもあった。
けれど、彼の筆が止まったのは受付台の前だった。
少年が、貴族の老婦人に登録証の提示を求めている。
老婦人は少し不満そうにした。
「私を知らないのですか」
少年は緊張しながらも答えた。
「存じているかどうかではなく、確認が必要です」
隣の少女が台帳を押さえている。
老婦人はしばらく少年を見つめ、それから登録証を出した。
「よろしい。私の若いころにも、あなたのような受付が必要でした」
少年は意味が分からない顔をした。
エミールにも分からない。
だが、老婦人が少し寂しそうに笑ったので、彼はその一文を記録した。
次に、訓練場へ行った。
そこではエラという少女が、小型刷毛を小糸鳥に取り付ける試験をしていた。刷毛は大きすぎて、小糸鳥は三歩で前のめりに倒れた。
「失敗ですか」
エミールが尋ねると、エラは言った。
「はい。成功です」
「失敗なのに?」
「倒れることが分かりました。なので成功です」
その理屈は、新聞記事には少し書きにくい。
だが、救助具工房では何度も聞いた考え方だった。
失敗は終わりではなく、記録の始まり。
午後、エミールはコレットに短い取材を申し込んだ。
「今回の記事で、読者に一つだけ伝えるなら何ですか」
コレットは少し考えた。
「助けを求める人は、物語を盛り上げるために困っているわけではありません」
エミールは筆を止めた。
「厳しいですね」
「記者の方には、特に伝えたいです」
「耳が痛い」
「痛いうちに書いてください」
彼は笑った。
昔なら、その言葉も見出しにしたかもしれない。
今は、記事の中心に置くべきではないと分かる。
翌日の王都日報には、派手な奇跡は載らなかった。
受付で登録証を確認する少年。
刷毛の重さで倒れる小糸鳥。
灰色の手袋を配るミナ。
靴紐に絡まった救助具の記録を真面目に読むノア。
それらの小さな場面が載った。
編集長は売上を心配した。
だが、記事はよく読まれた。
読者から手紙も来た。
『うちの店にも危険報告帳を置きたい』
『子どもに本人確認を教えたい』
『失敗を成功の始まりと書いてあったので、弟子を叱りすぎたことを反省した』
エミールは手紙を読み、記事の余白に小さく書いた。
『派手でなくても届く言葉がある。むしろ、派手にしない方が届くことがある』
それは新聞記者として、少し悔しい発見だった。
しかし、悪くない悔しさだった。




