後日譚 第三十九話 それぞれの欠席届
赤糸学舎では、年に一度だけ奇妙な授業がある。
欠席届を書く授業だ。
もちろん、ただ休むための書類ではない。
自分がどこに行かないか、なぜ行かないか、代わりに何を選ぶかを言葉にする練習である。
最初にこの授業を提案したとき、ノア様は少し笑った。
「あなたらしい授業ですね」
「大事です。人は、出席することばかり教えられます。でも、行ってはいけない場所もある」
「逃げることを教えるのですか」
「逃げ方を知らない人は、逃げるべきときに立ち尽くします」
授業の日、子どもたちは紙に向かった。
『私は、殴る親方の工房を欠席します』
『私は、字を習うなと言う人の言葉を欠席します』
『私は、危ない橋を一人で渡ることを欠席します』
『私は、助けを呼ぶのを恥ずかしがることを欠席します』
大人の受講者も書いた。
『私は、過去の失敗を隠す会議を欠席します』
『私は、女だから無理だと言われて黙ることを欠席します』
『私は、疲れているのに大丈夫と言うことを欠席します』
ミナは、自分の紙をしばらく隠していた。
「見せなくてもいいわ」
私が言うと、彼女は首を振った。
「いいえ。見せます」
紙にはこう書かれていた。
『私は、誰かに選ばれるために泣くことを欠席します』
ニナは、こう書いた。
『私は、コレット様の後ろにいるだけの自分を欠席します』
「頼もしいけれど、少し寂しいわ」
「欠席するだけです。いなくなるわけではありません」
サヤからは南方支部経由で紙が届いた。
『私は、北の技術だから偉いと言われる会議を欠席します』
マルタ隊長は、非常に大きな字で書いた。
『私は、根性で何とかしろという上官を欠席する』
レオンス殿下も一枚出した。
『私は、確認を怠る自分を欠席します』
そしてノア様は、少し遅れて紙を出した。
『私は、大切な人を守るためと称して黙ることを欠席します』
私はその紙を見て、胸が温かくなった。
「では、私も」
自分の紙に書く。
『私は、針を持つ自分を小さく扱うことを欠席します』
書き終えると、手が少し震えていた。
学舎の壁には、その年の欠席届が並んだ。
誰かに強制された欠席ではない。
自分を守り、次の場所へ出席するための欠席だ。
子どもたちは壁を見て、真剣な顔をしていた。
エラが小さな声で言った。
「欠席って、逃げることじゃないんですね」
「逃げることでもあります」
私は答えた。
「でも、逃げた先で何をするかを自分で決めたら、それは始まりにもなります」
エラはうなずき、紙にもう一行足した。
『私は、助ける人になることに出席します』
その一行は、少し曲がっていた。
でも、とてもほどけにくそうだった。




