後日譚 第二十六話 新聞記者は物語を急がせる
王都へ戻る途中、私たちは新聞記者に待ち伏せされた。
馬車を降りた宿場町の広場で、細身の青年が帽子を押さえて駆け寄ってきた。
手には筆記板。肩には革鞄。目だけが異様に輝いている。
「ルブラン夫人! 少しだけお話を!」
私は馬車の段を降りる途中で止まった。
「どちら様ですか」
「王都日報のエミール・ガントです。『欠席令嬢、砂漠を征服』という特集を予定しておりまして」
「征服していません」
即答すると、彼は筆を止めた。
「では、『人形夫人、死の砂嵐を支配』で」
「支配もしていません」
「読者に強い印象を」
「間違った印象は困ります」
彼は困ったように眉を下げた。
悪意は薄い。けれど、言葉を派手にすることに慣れすぎている。
ノア様が私の隣に立った。
「ガント記者。取材を許可する条件があります」
「はい、辺境伯閣下」
「救助された人数だけでなく、助けられなかった二人の名前も書くこと。南方職人の技術を、北の工房の手柄にしないこと。リネットを生きた少女のように書かないこと」
エミール記者は目を瞬かせた。
「最後は、なぜですか。読者は人形に感情移入します」
「感情移入は自由です。しかし、救助具を少女扱いすると、次に壊れたとき職人が修理しづらくなります。逆に、道具だから何をしてもいいと思われても困ります」
私はリネットを見た。
リネットは馬車の中で座っている。砂で削れた外布は替えたが、足板の傷は残してある。
「リネットは、救助具です。けれど、雑に扱ってよい物ではありません。そこの距離を間違えないでください」
エミール記者は、初めて筆記板から顔を上げた。
「難しいですね」
「はい」
「新聞は、分かりやすくないと読まれません」
「命に関わる話は、分かりやすくしすぎると危険です」
彼はしばらく黙った。
広場では荷馬車が行き交い、宿屋の女将が干し布を取り込んでいる。世間は、私たちの会話など気にせず動いていた。
やがてエミール記者は筆を置いた。
「では、こうしましょう。私は記事を書きます。掲載前に、事実確認だけお願いします」
「表現の修正も求めるかもしれません」
「見出しは編集長が決めるので、戦います」
「勝ってください」
「強い要求ですね」
「読まれる記事を書ける方なら、勝てるはずです」
エミール記者は苦笑した。
数日後、王都日報に記事が載った。
見出しは、こうだった。
『砂の下へ届いた糸――北と南の職人が作った新しい救助具』
派手さは少し足りないかもしれない。
でも、記事はよく読まれた。
救助された男の子がリネットの手を握っていたこと。サヤの砂除け布。助けられなかった二人の名前。南方支部ができること。
記事の最後には、小さな囲みがあった。
『救助具は奇跡ではありません。救助隊、医療係、現地職人、記録係、そして助けを待つ人の声があって初めて働きます』
私はその囲みを切り抜き、工房の掲示板に貼った。
その下へ、リネットが自分で書いた札を置いた。
『食事機能はありません』
なぜそこを補足したのかは分からない。
けれど訪れた子どもたちには、大変よく読まれた。




