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婚約破棄の会場に、私だけ欠席していました~王子が断罪した“悪役令嬢”は、私が縫った身代わり人形です~  作者: 小竹X


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後日譚 第二十四話 助けられなかった人

 砂嵐の救助で、私たちは七人を助けた。


 子どもが二人。

 商人が三人。

 護衛が一人。

 御者が一人。


 そして、二人を助けられなかった。


 その数字を、私は忘れないと思う。


 侯爵家の医療所には、助かった人たちの家族が集まっていた。泣き声、祈り、怒号、安堵の笑い。人の感情は、一つの部屋に入るには大きすぎる。


 助けられなかった一人は、隊商の頭領だった。

 彼は最後まで荷台の下で、子どもを庇っていたらしい。砂が胸を圧迫し、私たちが掘り出したときには、もう息がなかった。


 もう一人は、若い護衛だった。

 遠くへ助けを呼びに行こうとして、風で方向を失った。


 リネットの糸は、彼の場所まで届かなかった。


 夜、私は仮工房で手を洗い続けていた。

 砂と血と薬草の匂いが、指の間に残っている気がした。


「コレット」


 ノア様が静かに呼んだ。


「はい」


「もう水は澄んでいます」


 桶の水を見ると、確かに透明だった。

 それでも、手は汚れているように見えた。


「七人助けました」


 私は言った。


「ええ」


「でも、二人は」


「はい」


「もっと早く砂糸を改良していれば。最初からサヤ様に教わっていれば。リネットの感知範囲を広げていれば」


「それは改善点です」


 ノア様は私の隣に立った。


「責任のすべてではありません」


「違いが、よく分かりません」


「私も、今でも間違えます」


 彼は桶の横に膝をつき、私の濡れた手を布で拭いた。

 その動きは、とても慎重だった。


「鉱山で初めて死者を出したとき、私は救助報告書を書けませんでした。名前を書くと、その人が死んだことを認めるようで」


「どうしたのですか」


「マルタ隊長に叱られました。『名前を書け。次に同じ場所を通る者が、その名前に助けられる』と」


 私は手を見た。


 助けられなかった人の名前を、記録する。

 失敗として隠すのではなく、次の糸にする。


「痛いですね」


「痛いです」


「ノア様は、痛いことをよく知っていますね」


「領主ですから」


「ではなく、人としてです」


 ノア様は少し黙った。


「あなたも知っています」


「知りたくないことも、多いです」


「それでも、あなたは明日また縫う」


 私はうなずいた。

 泣くより先に、うなずいていた。


 翌朝、サヤが仮工房へ来た。

 彼女は二枚の布札を持っていた。助けられなかった二人の名前が、砂色の糸で縫われている。


「隊商の人たちは、砂に名を返す儀式をします。でも、あなたの工房にも残してほしいと言っていた」


「私の工房に?」


「救助具を作る人は、成功だけを飾ってはいけないそうです」


 厳しく、優しい言葉だった。


 私は布札を受け取った。

 軽い布なのに、重かった。


「お預かりします」


「預かるだけ?」


「いいえ」


 私は針を取った。


「次の型紙に入れます」


 リネットの新しい足板の設計図に、二人の名を書いた。

 名前の横に、失敗の原因も書く。


 距離不足。

 砂壁の崩れ。

 熱による糸の硬化。

 人員配置の遅れ。


 美しくない記録だ。

 でも、救助具の型紙は、美しさだけでは人を助けない。


 リネットは作業台の上で、静かに足を待っていた。


「次は、もっと遠くへ行けるようにする」


 私が言うと、リネットは答えた。


「任務内容を更新しますか」


「ええ」


「助けられなかった人を、記録しますか」


「します」


 リネットは少し間を置いた。


「記録は、重いですか」


「重いわ」


「では、足を広くしてください。沈みにくくなります」


 私は息を呑み、それから笑った。

 泣き笑いのような変な顔だったと思う。


「そうね。そうしましょう」


 重い記録を持つなら、沈みにくい足が必要だ。


 その日、リネットの足は少し大きくなった。

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