後日譚 第二十話 欠席届の額縁
私の最初の欠席届は、今も工房に飾られている。
三日前に建国祭夜会を欠席すると提出した、あの書類だ。礼典課の受領印、代理挨拶用人形の登録番号四九番、母の命日に墓参へ行くという理由。王宮では、あの紙がすべての始まりになった。
額縁に入れたのはニナである。
「歴史的書類です」
彼女は真顔で言った。
「少し恥ずかしいのだけれど」
「お嬢様が欠席したおかげで、今があります」
「欠席を美談にしすぎるのも危険です」
「では、手順の大切さを示す資料として」
それは否定しにくかった。
工房見学に来る子どもたちは、額縁の欠席届を見てよく質問する。
「どうして欠席したの?」
「危ない会場だったからです」
「人形を行かせたの?」
「はい」
「ずるい?」
その問いには、いつも少し考える。
「ずるいと思う人もいるかもしれません。でも、私は正式な手続きをしました。欠席届を出し、代理人形を登録し、その人形は本人だと嘘をつきませんでした」
「じゃあ、ずるくない?」
「大事なのは、誰かを騙して傷つけるために使ったか、自分を守るために使ったか。そして、止め方と記録があったかです」
子どもは難しい顔をする。
すべてをすぐ理解する必要はない。
ただ、見た目だけで決めないこと。書類や手順が、人を縛るだけでなく守ることもあること。それが少し伝わればいい。
ある日、エリアーヌ女王が工房を訪れた。
女王は欠席届の額縁を見て、口元を緩めた。
「これが有名な欠席届ですか」
「恥ずかしながら」
「王宮史料館から借用依頼が来そうですね」
「工房の資料ですので、原本は出しません。写しなら」
女王は笑った。
「さすがです」
彼女はしばらく額縁を見ていた。
「欠席とは、本来、そこにいないことを示すだけの言葉です。でも、あなたの欠席は、そこにいるべきだと決めつけられていた人間が、自分で場所を選んだ記録なのですね」
その解釈は、私には少し大きすぎるように思えた。
けれど、悪くない。
私は工房を見回した。
リネット。
糸鼠。
赤い鳥。
救助布。
音糸。
糸燕。
赤糸学舎の練習布。
欠席届から始まったものが、こんなに増えた。
女王が帰った後、ノア様が額縁を見て言った。
「私も、写しが欲しいですね」
「何に使うのですか」
「執務室に飾ります。手順を軽んじる者への警告として」
「それは少し嫌です」
「では、私があなたに出会うきっかけになった書類として」
私は少し顔が熱くなった。
「それなら、写しを作ります」
ノア様は満足そうにうなずいた。
欠席届は、今も工房の壁にある。
ただし、その横には新しい札が加わった。
『欠席するときは、正式に。出席するときは、本人確認を。』
マルタ隊長が書いた。
字は少し荒いが、意味は正しい。




