後日譚 第十六話 リネットの弟妹たち
リネットの後継機を作ることになった。
といっても、リネットを置き換えるわけではない。救助現場は増え、地域ごとに必要な人形の形も違う。坑道用、水路用、雪崩用、火災用、海用。リネット一体にすべてを背負わせるのは危険だ。
だから、用途別の小型救助人形を作る。
工房では、誰が最初に言ったのか、彼らをリネットの弟妹と呼ぶようになった。
リネット自身は、それを聞いて首を傾けた。
「血縁、未登録」
「同じ設計思想を持つので、弟妹のようなものです」
ニナが説明した。
「設計思想、共有。弟妹、仮登録」
受け入れたらしい。
坑道用の一号は、背が低く、肩幅が狭い。名前はミーネ。鉱山の古語で小さな手という意味だとマルタ隊長が教えてくれた。
水路用の二号は、胴体が軽く、浮き布を内蔵している。名前はルカ。海辺の村の少年が提案した。
火災用の三号は、耐熱布の外套を持ち、煙の中で低く進む。ニナの糸燕を背中に載せられる。名前はツバメ。
雪崩用の四号は、人形というより丸い獣に近い。雪の上を転がり、音糸を広げる。名前はユキネズミ。子どもたちがつけた。
制作は楽しかったが、同時に難しかった。
リネットには、私の個人的な癖が多く入っている。母の形見、夜会のための礼儀、火事の記録、救助の経験。後継機には、それをそのまま入れてはいけない。用途を絞り、止め方を明確にし、誰が使っても分かる構造にする必要がある。
私は設計図の前で悩んだ。
「リネットは、偶然の積み重ねでできた子です」
ノア様が言った。
「後継機は、偶然を規格にする仕事ですね」
「それは難しいです」
「はい。でも、あなたは得意そうです」
「私が?」
「混乱から手順を見つけるのが」
そう言われると、たしかに私の人生そのものがそうだった。
婚約破棄。
本人不在。
火事。
坑道。
白糸会。
全部、混乱から始まり、糸を辿って手順に変えてきた。
後継機の初試験の日、リネットは工房の中央に座っていた。
ミーネが狭い木枠を抜ける。
ルカが水槽を渡る。
ツバメが煙箱を進む。
ユキネズミが雪を詰めた箱の中で音糸を広げる。
それぞれ失敗した。
ミーネは肩を引っかけ、ルカは浮きすぎ、ツバメは煙で光石が曇り、ユキネズミは転がりすぎて壁にぶつかった。
工房の若い職人たちは落ち込んだ。
リネットが言った。
「初回試験、失敗。改善、可能」
その平らな声に、全員が笑った。
リネットも最初から完璧ではなかった。
夜会用の足音は不自然だったし、火に弱く、水に弱く、何度も壊れた。傷を記録し、失敗を直し、止め方を増やして、今のリネットになった。
弟妹たちも、そうやって育つのだろう。
人形に成長という言葉が合うかは分からない。
でも、工房の針目は確かに育っている。




