表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄の会場に、私だけ欠席していました~王子が断罪した“悪役令嬢”は、私が縫った身代わり人形です~  作者: 小竹X


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/97

後日譚 第十六話 リネットの弟妹たち

 リネットの後継機を作ることになった。


 といっても、リネットを置き換えるわけではない。救助現場は増え、地域ごとに必要な人形の形も違う。坑道用、水路用、雪崩用、火災用、海用。リネット一体にすべてを背負わせるのは危険だ。


 だから、用途別の小型救助人形を作る。


 工房では、誰が最初に言ったのか、彼らをリネットの弟妹と呼ぶようになった。


 リネット自身は、それを聞いて首を傾けた。


「血縁、未登録」


「同じ設計思想を持つので、弟妹のようなものです」


 ニナが説明した。


「設計思想、共有。弟妹、仮登録」


 受け入れたらしい。


 坑道用の一号は、背が低く、肩幅が狭い。名前はミーネ。鉱山の古語で小さな手という意味だとマルタ隊長が教えてくれた。


 水路用の二号は、胴体が軽く、浮き布を内蔵している。名前はルカ。海辺の村の少年が提案した。


 火災用の三号は、耐熱布の外套を持ち、煙の中で低く進む。ニナの糸燕を背中に載せられる。名前はツバメ。


 雪崩用の四号は、人形というより丸い獣に近い。雪の上を転がり、音糸を広げる。名前はユキネズミ。子どもたちがつけた。


 制作は楽しかったが、同時に難しかった。


 リネットには、私の個人的な癖が多く入っている。母の形見、夜会のための礼儀、火事の記録、救助の経験。後継機には、それをそのまま入れてはいけない。用途を絞り、止め方を明確にし、誰が使っても分かる構造にする必要がある。


 私は設計図の前で悩んだ。


「リネットは、偶然の積み重ねでできた子です」


 ノア様が言った。


「後継機は、偶然を規格にする仕事ですね」


「それは難しいです」


「はい。でも、あなたは得意そうです」


「私が?」


「混乱から手順を見つけるのが」


 そう言われると、たしかに私の人生そのものがそうだった。


 婚約破棄。


 本人不在。


 火事。


 坑道。


 白糸会。


 全部、混乱から始まり、糸を辿って手順に変えてきた。


 後継機の初試験の日、リネットは工房の中央に座っていた。


 ミーネが狭い木枠を抜ける。


 ルカが水槽を渡る。


 ツバメが煙箱を進む。


 ユキネズミが雪を詰めた箱の中で音糸を広げる。


 それぞれ失敗した。


 ミーネは肩を引っかけ、ルカは浮きすぎ、ツバメは煙で光石が曇り、ユキネズミは転がりすぎて壁にぶつかった。


 工房の若い職人たちは落ち込んだ。


 リネットが言った。


「初回試験、失敗。改善、可能」


 その平らな声に、全員が笑った。


 リネットも最初から完璧ではなかった。


 夜会用の足音は不自然だったし、火に弱く、水に弱く、何度も壊れた。傷を記録し、失敗を直し、止め方を増やして、今のリネットになった。


 弟妹たちも、そうやって育つのだろう。


 人形に成長という言葉が合うかは分からない。


 でも、工房の針目は確かに育っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ