表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄の会場に、私だけ欠席していました~王子が断罪した“悪役令嬢”は、私が縫った身代わり人形です~  作者: 小竹X


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/97

後日譚 第十五話 王女の依頼

 新しい王位継承者となったエリアーヌ王女から、正式な依頼が来た。


 彼女は遠縁の王族で、これまで政治の中心にはいなかった。王都では、突然担ぎ出された王女、という見方をする者もいる。だが、監査院長によれば、彼女は地方行政と医療院の改革に詳しい実務家らしい。


 依頼の内容は、王宮の儀礼衣装の全面監査だった。


 白糸会の影響が、王宮衣装庫にどれほど残っているか分からない。冬至祭の鏡箱事件のあと、王女は自分の即位式で白い幕や代理衣装を使うことを拒否した。


『王権は、見せかけでなく責任で示すべきだと考えます。貴組合の監査協力を求めます』


 手紙の文面は簡潔で、好感が持てた。


 王宮衣装庫に入るのは、感慨深かった。


 かつて私は、ここでドレスの裾を直し、夜会用の手袋を縫い、ミナ様の衣装の隣室で断罪の計画を聞いた。布の匂いは同じだが、今は立場が違う。


 私は監査役として入る。


 王女は、作業服に近い簡素な上着で現れた。


「コレット・ルブラン夫人ですね」


「はい。技術監督として参りました」


「夫人より、その肩書きでお呼びした方がよさそうですね」


「ありがたいです」


 王女は微笑んだ。


「私も、王女より行政官の方が落ち着きます」


 気が合いそうだった。


 衣装庫の監査は、予想通り大変だった。


 古い儀礼服の裏、王冠を包む布、幕、手袋、靴下にまで、白糸会の命令糸が残っていた。多くは無害化していたが、一部には『従え』『黙れ』『忘れろ』に近い古い命令が残っている。


 王女は、その一つ一つを見て、顔を険しくした。


「王権が、こんな布に頼っていたのですか」


「一部の人々が、王権を保つためだと信じて使ったのだと思います」


「それは王権ではなく、怠慢です」


 王女は、はっきり言った。


 私は少し驚き、そして安心した。


 即位式の衣装は、新しく作ることになった。


 白ではなく、生成りの布。停止糸に由来する赤い細線を袖口に入れる。ただし、命令糸ではない。ただの刺繍だ。王女自身が提案した。


「王が止まるべきときに止まれるように、見える場所に赤を置きたい」


 その言葉は、式典記録に残された。


 即位式当日、王女は自分の足で階段を上がった。


 代理人形も、鏡箱も、白幕もない。


 リネットは、会場の端で救助補助具として待機していた。何も起こらなかった。それが一番よい結果だった。


 式の後、王女は私に言った。


「あなたが婚約破棄の会場に欠席していなければ、この国は白い幕の裏を見ないままだったかもしれません」


「偶然も多かったです」


「偶然を記録に変えるのが、あなたの仕事なのでしょう」


 私は少し考え、うなずいた。


「はい。たぶん、そうです」


 王女は、救命具師組合を王国公認の独立組合として認める勅許状をくれた。


 そこには、技術は公開登録され、職人の停止権は保護されると明記されていた。


 母の型紙から始まった赤い糸は、ついに王宮の法の中にも縫い込まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ