後日譚 第十四話 赤糸学舎の卒業式
赤糸学舎に、最初の卒業式が来た。
白糸工房から保護された六人のうち、三人が基礎課程を終え、救命具師見習い、織物職人見習い、医療所補助員としてそれぞれ進むことになった。残りの三人は、まだ学舎に残る。早い遅いではない。それぞれの手が、どの速さで動けるかの違いだ。
卒業式は、小さな教室で行われた。
壁には、子どもたちが作った布が飾られている。結び目の練習、ほどき方の図、命令しない針仕事、初めて縫った手袋。白糸工房の地下で縫わされた布とは違い、どれも不揃いで、明るい。
ミナ様は、壇上で少し緊張していた。
「卒業おめでとうございます」
子どもたちが笑う。
「先生、声が震えてる」
「先生も緊張します」
「癒やし使えば?」
「緊張は悪いものではありません。今日はこのまま話します」
その返事に、私は胸が温かくなった。
卒業生の一人、最初に私へ「あなたは白糸の人じゃない?」と聞いた少女は、織物職人見習いになる。彼女は自分で織った赤い細紐を、卒業証書代わりに受け取った。
「私は、ほどける布を作ります」
彼女は言った。
「結んでも、必要なときにほどける布。赤ちゃんのおくるみとか、怪我した人の包帯とか」
ミナ様はうなずいた。
「とても大事な布です」
少年の一人は、救命具師見習いとして王都支部へ行く。
彼は、緊張した顔で私に言った。
「僕は、命令糸がまだ怖いです」
「怖いままでいいと思います」
「怖いのに、見習いになれますか」
「怖くない人より、止め方を大事にできるかもしれません」
彼は少しだけ笑った。
卒業式の最後、全員で大きな布をほどいた。
これはミナ様の提案だった。長い赤い紐を教室中に巡らせ、結び目を作り、卒業生が一つずつほどく。全部ほどけたら、紐は一本の長い線になる。
子どもたちは笑いながらほどいた。
一部は固く結ばれすぎて、なかなか解けない。すると、別の子が手伝う。
最後の結び目は、ミナ様と私でほどいた。
かつて嘘の証言をした聖女と、断罪された欠席令嬢。
二人で、赤い紐をほどく。
人生は、物語のように一度で綺麗にはほどけない。
でも、結び目を見つけ、誰かと一緒に指をかければ、少しずつ緩むことがある。
卒業式の後、ミナ様が言った。
「コレット様。私は、あなたに許してもらえたでしょうか」
以前と同じ問いだった。
私は少し考えた。
「全部ではありません」
「はい」
「でも、今日の結び目は一つほどけたと思います」
ミナ様は、目に涙をためて笑った。
「それで十分です。次も、ほどきます」
「はい」
窓の外で、卒業生たちが赤い紐を振っていた。
その紐は、白糸工房の布とは違い、誰の首も縛らない。
風の中で、自由に揺れていた。




