後日譚 第七話 ミナの資格試験
ミナ様が救命具師補助資格の試験を受けると言い出したとき、赤糸学舎の子どもたちは大騒ぎになった。
「先生も試験受けるの?」
「はい」
「落ちたら?」
「もう一度受けます」
「先生なのに?」
「先生でも、知らないことはあります」
ミナ様は笑って答えた。
試験内容は、基礎的な命令糸の読み取り、停止糸の確認、救助布の扱い、記録の書き方、そして倫理規定。ミナ様は癒やしの力があるが、救命具師としては初心者だ。特に、針仕事は得意ではない。
彼女は練習布を前に、何度もため息をついていた。
「コレット様、私の針目、曲がっています」
「曲がっていますね」
「少し慰めてください」
「曲がっていても、停止糸として機能すれば合格範囲です」
「それは慰めですか」
「実務上の評価です」
ミナ様は笑った。
昔の彼女なら、泣きそうな顔で周囲を動かしたかもしれない。今は、自分の下手さを見て笑えるようになっている。
試験当日、彼女は白ではなく、淡い青の作業服を着た。
第一課題は、偽物の救助布から危険な命令を見つけること。
ミナ様は布を指でなぞり、眉を寄せた。
「この糸、止まる命令が内側にあります。外から引けません。危険です」
正解。
第二課題は、怪我人役の人形に救助布を触れさせ、絡ませずに位置を知らせること。
ミナ様は緊張で手を震わせながらも、赤糸を外へ残した。
第三課題は記録。
彼女は、少し時間をかけて丁寧に書いた。
『怖がっている子どもには、布を先に見せる。触ってよい場所、引いてはいけない場所を言葉で説明する。癒やしを使う前に、相手の同意を確認する』
採点官の一人が、最後の文を指した。
「癒やしの同意確認は、救命具師試験の項目にはありませんが」
ミナ様は顔を上げた。
「私には必要です。以前の私は、自分の力を神殿のものだと思っていました。でも、癒やされる側の体は、その人のものです」
採点官は何も言わず、合格印を押した。
試験後、子どもたちがミナ様を囲んだ。
「先生、合格?」
「合格です」
「じゃあ、先生も一年生?」
「そうかもしれません」
ミナ様は笑い、少し泣いた。
私は合格証を渡した。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます。コレット様」
「これで、あなたは聖女ではなく、救命具師補助員ミナですね」
「はい」
彼女の表情は、聖女と呼ばれていたころよりずっと晴れていた。
「その肩書きの方が、軽いです」
「仕事は重いですよ」
「分かっています。でも、自分で持つ重さです」
その言葉に、私はうなずいた。
自分で持つ重さ。
それは、白い糸に吊られる軽さより、ずっと人をまっすぐ立たせる。




