表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄の会場に、私だけ欠席していました~王子が断罪した“悪役令嬢”は、私が縫った身代わり人形です~  作者: 小竹X


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/97

後日譚 第四話 王都支部の椅子条項

 王都支部の設立準備は、予想以上に難航した。


 理由は、技術ではなく椅子だった。


 救命具師組合の規約には、職人停止権と点検休暇、そして椅子条項が入っている。危険作業や長時間作業の前後に、責任者は職人へ着席と休憩の機会を与えなければならない。現場では実用的な条項だ。


 しかし王都の官僚たちは、これを理解できなかった。


「職人が疲れたからといって作業を止められては、式典に支障が出ます」


 王都支部設立会議で、礼典課の新任官が言った。


 私は書類から顔を上げた。


「疲れた職人が命令糸を誤れば、式典どころではありません」


「しかし、王宮では伝統的に徹夜作業も」


「その伝統は、白糸工房の地下作業場と相性がよかったようですね」


 会議室が静まり返った。


 少し言いすぎたかもしれないが、撤回はしなかった。


 王都支部は、白糸会の残した工房跡を改装して作る予定だった。秘密の地下ではなく、通りに面した明るい建物にする。窓は大きく、作業台は外から見える。登録台帳は閲覧可能。停止糸の見本は入口に置く。


 そして、休憩用の椅子を十分に置く。


 ノア様は会議の隅で、私の発言を聞きながら少しだけ笑っていた。


 監査院長は、椅子条項に賛成だった。


「王都の官庁にも導入したいくらいです」


「監査院から始めてはいかがですか」


 私が言うと、彼は真顔で検討し始めた。


 レオンス殿下も会議に出席していた。


 王太子ではなく、王族監査補佐という新しい肩書きだ。以前なら、彼が会議にいるだけで空気が彼中心になった。今は、彼自身が発言を控え、必要なときだけ事実を確認する。


「礼典課の徹夜作業は、私の時代にも多かった」


 彼は言った。


「私が無茶な変更を前日に命じたこともある。今思えば、そこで白糸工房のような秘密業者に頼る余地が生まれた」


 礼典官は気まずそうに黙った。


「椅子を置くことが王家の威信を傷つけるとは思わない。むしろ、椅子を置けない威信なら弱すぎる」


 その言葉で、会議の流れは決まった。


 王都支部には椅子が置かれる。


 それも、ただの椅子ではない。休憩用、作業用、救助後の記録用、怪我人の待機用。用途ごとに高さと背もたれが違う。ニナが図面を見て、目を輝かせた。


「椅子にも規格が必要ですね」


「あなたまで」


「お嬢様の影響です」


 王都支部の開所日、入口には長い列ができた。


 救助具の見学に来た市民、白糸会に傷つけられた人、命令糸を安全に学びたい職人、単にリネットを見たい子ども。料理長の木苺パイ屋台も出ていた。


 リネットは受付横で停止糸の説明をしていた。


「赤い糸、緊急停止。引く場合は、周囲の安全を確認」


「人形さん、椅子に座らないの?」


 子どもが聞く。


「点検時、着席」


「今は?」


「受付任務中」


 子どもは真剣にうなずいた。


 ミナ様は赤糸学舎王都分室の案内をしていた。聖女の称号は返上したが、彼女を慕う人は多い。以前のように奇跡を崇めるのではなく、話を聞いてほしい人が集まっている。


 開所式の最後、私は入口の椅子に座った。


 記者が驚いた顔をした。


「技術監督、なぜ式典中にお座りに?」


「椅子条項の実演です」


 ノア様が隣に座った。


「共同経営者として同席します」


 レオンス殿下も、少し離れて座った。


「王族監査補佐として、条項の遵守を確認します」


 監査院長が笑い、会場に椅子が次々に出された。


 立ったまま見栄を張るより、座って続ける方がいい。


 王都支部は、そうして始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ