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婚約破棄の会場に、私だけ欠席していました~王子が断罪した“悪役令嬢”は、私が縫った身代わり人形です~  作者: 小竹X


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第41話 白糸会の最後の糸

 地下劇場から助け出されたのは、レオンス殿下と子ども二人だけではなかった。


 さらに奥の古い衣装部屋から、白糸会の帳簿、鏡箱の設計図、そして数十体分の代理人形の顔型が見つかった。王族、神官、貴族、商人。誰かに似せるための未完成の顔が、棚に並んでいた。


 その光景を見た監査院長は、長く黙った。


「これは、王国の顔を盗む工房だ」


 その言葉が、翌日の新聞の見出しになった。


 白糸会の代表者は、舞台で捕まった白妙装飾の主だった。彼は最初、すべてクレマンの指示だと言い張った。だが、地下衣装部屋の記録糸がそれを崩した。


 記録糸は、私のものではなかった。


 白糸会自身が、作業効率のために残していたものだ。職人たちの会話、搬入記録、鏡箱の調整、偽物の王太子の練習。彼らは証拠を消す技術を持ちながら、自分たちの管理のための記録を残していた。


 人は、他人にだけ完全な沈黙を求め、自分の便利のためには記録を残す。


 その矛盾が、彼らを縛った。


 審問は、王都冬至祭の翌日から始まった。


 今度は非公開ではなかった。王都広場に掲示板が立てられ、主要な証言と証拠が毎日公示される。秘密工房によって傷ついた人々へ、秘密で裁くわけにはいかないという監査院の判断だった。


 ミナ様は、神殿の証人として立った。


 赤糸学舎の子どもたちの名前は伏せられたが、彼らの手の傷、練習布、命令の内容は記録された。地方司祭は自らの不明を認め、神殿本部の高位神官二名が拘束された。


 レオンス殿下も証言した。


 彼は、自分がクレマンの言葉を疑わず、王太子府の内部監査を怠ったことを認めた。白い布による影響があった可能性は示されたが、彼はそれを免責には使わなかった。


「糸があったとしても、私は自分の足で壇上へ上がりました。責任は残ります」


 その言葉は、王都で大きな波紋を呼んだ。


 王太子にふさわしくないと怒る貴族もいた。


 初めて王族の言葉らしいと評価する民もいた。


 私は、ただ記録として聞いた。


 父も証言した。


 母の型紙の一部を白糸工房へ渡したこと、記憶補助布を受け取ったこと、白紙封書をクレマンへ渡したこと。彼は何度も言葉に詰まり、それでも最後まで話した。


 証言後、父は私に近づいた。


「お前の母の型紙が、裁きに使われるとは思わなかった」


「母は、布をほどくために残したのだと思います」


「そうだな」


 父は、以前より素直にうなずいた。


 私たちの間に、完全な和解はない。


 けれど、同じ布の端を見ている感覚はあった。


 最終審問の日、白糸会の代表は私に向かって言った。


「あなたも同じだ。人形を作り、布に命令を入れ、人の代わりを立てた。少し使い方が違うだけで、我々と同じ技術だ」


 私は証言台で、その言葉を受けた。


「技術は似ています」


 広場に集まった人々が静かになる。


「だからこそ、違いを決める規則が必要です。停止糸。公開登録。使用記録。職人停止権。救助隊の監督。使う人が止め方を知ること。あなた方は、それを全部隠しました」


 白糸会の代表は笑った。


「人は、見たいものしか見ない。美しい幕を見せれば、中身など気にしない」


「そうかもしれません」


 私はリネットを見た。


 右腕をまた修理中の人形は、証言台の横に立っている。


「でも、一度中身を見た人は、次から幕の裏も見るようになります」


 広場の端で、ユリスが赤い鳥を抱えていた。


 水路で助かった石工が、救助布を首に巻いている。


 赤糸学舎の子どもたちは、自分たちで縫った手袋をしている。


 彼らはもう、白い幕だけを見ない。


 審問の結果、白糸会は解体された。


 白糸工房の資産は押収され、一部は被害者の補償と赤糸学舎の運営資金に回された。命令糸技術は王国監査院の管理下で公開登録制になり、ルブラン救命具師組合の規格が基礎として採用された。


 クレマンと白糸会代表には重い刑が下った。


 神殿本部は刷新され、ミナ様は聖女の称号を返上した。


「称号がない方が、子どもたちと話しやすいです」


 彼女はそう言った。


 レオンス殿下は、王太子位を返上した。


 王族として残り、監査院の監督下で地方行政と救助制度の整備に関わることになった。王位継承は、遠縁の王女を中心に再編されるらしい。


 彼は最後に私へ言った。


「君に、ありがとうと言う資格があるか分からない」


「資格ではなく、言葉としてなら受け取ります」


「では、ありがとう」


「記録します」


 彼は少し笑った。


「君は最後まで君だな」


「はい」


 私は、もうそれを否定しなかった。

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