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婚約破棄の会場に、私だけ欠席していました~王子が断罪した“悪役令嬢”は、私が縫った身代わり人形です~  作者: 小竹X


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第23話 クレマンの供述

 クレマンは、最初は何も話さなかった。


 審問室の中央で椅子に座り、口を閉ざし、監査官の問いに沈黙で返す。礼典副長としての整った身なりは、逃亡用の外套を剥がされたせいで崩れていたが、目だけはまだ強かった。


 王太子殿下は、彼を信じられない顔で見ていた。


「クレマン、お前が私に言ったのか。コレットが罪を認めると。ミナが脅されていると。すべて証人がいると」


 クレマンは殿下を見ない。


 監査官が問う。


「建国祭夜会における断罪の筋書きを作成したのはあなたですか」


 沈黙。


「代理人形四九番の記録糸を消すため、王宮西回廊に火を放つよう指示しましたか」


 沈黙。


「白糸工房の白縛り布を、ベルトラン商会経由でルブラン領の梁材へ使用させましたか」


 クレマンの指が、ほんの少し動いた。


 私はその動きを見逃さなかった。


 梁材の話に反応した。


 王宮火災や断罪より、鉱山の方が彼にとって隠したいことらしい。


 ノア様も気づいたようだった。


「クレマン卿」


 彼は立ち上がらず、証言台の横から声をかけた。


「ルブラン領の崩落事故では、五人が閉じ込められました。うち一人は子どもです。あなたは王宮の儀礼を扱う官吏です。なぜ辺境の梁材に関わったのですか」


 クレマンは唇を歪めた。


「辺境伯は、自分の領だけが国だと思っている」


「答えになっていません」


「救助具など、王家の許可なく広められては困る。人形が坑道で役に立つと知られれば、王宮の失態も消えなくなる。欠席令嬢の名が民に広まれば、殿下の威信が落ちる」


 レオンス殿下の顔が白くなった。


「私のためにやったと言うのか」


「殿下のためではありません。王家のためです」


 クレマンは、ようやく殿下を見た。


「あなたは優しすぎる。目の前の女に怒り、聖女に酔い、民の噂に怯える。王太子とは、もっと作られるものです」


 殿下が言葉を失う。


 クレマンは続けた。


「白糸工房は、王家のための影の道具を作ってきた。式典の替え衣装、代理挨拶の魔導具、証人を黙らせる布、罪を被せる人形。どれも、国を乱さないためのものです」


 審問室の空気が凍った。


 罪を被せる人形。


 私は、偽物のリネットを思い出した。


「人を傷つける人形を作ることが、国を乱さないためですか」


 私が問うと、クレマンは笑った。


「あなたの人形も、人を欺いたでしょう。王太子殿下を欺き、夜会の客を欺き、自分がいないことを利用した」


「リネットは本人だと名乗っていません」


「同じことだ。人は見た目を信じる。なら、見た目を使うのが政治だ」


 その理屈は、王宮の大広間にふさわしく聞こえるのかもしれない。


 けれど、私は坑道の暗闇を知っている。


 見た目ではなく、指先の熱で人を探した。声が届かない場所で、叩く音を数えた。赤い鳥を握った子どもの手は、政治の道具ではなかった。


「見た目を使うのが政治なら、中身を見せるのが職人です」


 私は言った。


「あなたの白い布は、中身を隠すために作られた。私の停止糸は、中身を見せるためにつけています。そこが違います」


 クレマンの笑みが消えた。


 監査官が、白糸工房の地下作業場について問う。


 クレマンはまた黙った。


 けれど、もう完全な沈黙ではなかった。彼の視線は神殿側の席へ一瞬走り、そこに座る地方司祭が震えた。


 ミナ様が立ち上がった。


「地下作業場は、王都神殿の西礼拝堂の下です」


 神殿側の席から、抗議の声が上がる。


 ミナ様は続けた。


「私は一度だけ連れて行かれました。癒やしの力を高める祈祷布を作る場所だと言われました。でも、そこには怪我をした職人や、目を隠された子どもたちがいました。白い布に命令を入れる練習をさせられていた」


「なぜ今まで黙っていた」


 神殿の使者が怒鳴った。


 ミナ様は震えたが、逃げなかった。


「怖かったからです。私も、弱い人を盾にされて従っていました。けれど、坑道の子どもが赤い鳥を握って外へ出た話を聞いて、もう黙れませんでした」


 クレマンの顔が歪んだ。


「聖女が情に流されるから、国が乱れる」


「国を乱したのは、あなたの布です」


 ノア様の声が静かに響いた。


 監査官は木槌を鳴らした。


「王都神殿西礼拝堂地下について、即時捜索令を請求する。クレマン卿は拘束を継続。白糸工房関係者の出国を禁ずる」


 審問室が騒然となる。


 その中で、レオンス殿下だけが座ったまま動かなかった。


 彼はクレマンを見て、ミナ様を見て、最後に私を見た。


 その目には、初めて、自分が何も見ていなかったことへの恐怖があった。


 私は視線を逸らさなかった。


 殿下を許すかどうかは、まだ遠い話だ。


 けれど、少なくとも彼は今日、見なければならない中身を見始めた。

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