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鉄格子の誓い  作者: GAKU
一章 奈落の底
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第5話

 その瞬間——


 思考が止まった。


 何がなんだかわからなくなった。


 ここがどこなのかもわからない。


 言葉がでない。



 え? なぜ?



 疑問符だけが頭の中を埋め尽くしていく。


「おい、海斗! 何しとんねん!」罵声(ばせい)が響いた。


「剣士こそ••••••なんで、ここにいるん?」


 黒髪を短く刈り上げた剣士は、切れ上がった目つきを光らせると、長身を(かが)めて海斗の真正面に腰を()えた。その視線は、まるで獲物を射抜(いぬ)く刃のようだった。


「質問を質問で返すなや。先手は俺やろ。解答権はおまえにあんねん」

 (うつむ)き加減の海斗は「捕まって、もうた••••••」とボソボソ言った。


「パクられたことぐらい一目瞭然やろ。そんなこと訊いてんちゃうねん。事件のこと話せや」


「まぁ、その••••••純矢くんにな、用事頼まれたから、引き受けてん——」


 海斗は、青山にさらけ出した一連のストーリーを再び、剣士にも披露した。辿々(たどたど)しく言葉にする海斗を、しかめっ面に頬杖(ほほづえ)を突きながら、黙然と聞いている剣士。


「——気ぃついたら留置場におったわ」


 剣士は聞こえよがしに、チッと大きな舌打ちを放った。

「ほんまに。アホとしか言いようないわ」

「どうせ海斗のことやし、犯罪やと思わんかった、とかぬるいことぬかすんちゃうやろな」

「うん••••••ようわかったやん」微笑を浮かべた。


呑気(のんき)なこと言うてる場合ちゃうで。言うとくけどな、海斗。おまえも悪いぞ。ニュース、見てないんか?」

「ニュース? そんなに••••••」

「出し子、受け子——聞いたことないか?」

「••••••闇バイトがどうのこうの?」

「そうや。その(たぐ)いになるんやけど、特殊詐欺ってやつや」


「聞いたことはあるよ」

「まさしくそれや」海斗に指を差す剣士。

「海斗がやらかしたんはな——」

 剣士はわざとらしく間を置いた。

「特殊詐欺の片棒担いだってこと」


 まるでマジックの種明かしでもされているかのように、着々と(あら)わになる全貌。気付かぬうちに泥沼に足が()かっていた。


「嫌な予感しとったんや。朝井純矢がな、南署に引っ張ってこられた時、もしかして海斗も一枚()んでんのちゃうんかって。ほんなら案の定やんけ」

 剣士は、チッと二度目の大きな舌打ちを放った。

「俺、散々海斗に言ったよな?」

 海斗は沈黙のまま視線だけをを向けた。


「あんなチンピラとつるんどったら、しまいに手後ろに回るでって」

「••••••もう••••••やってしまったことやし。過去には戻られへん••••••」

「そうは言うても、この代償は高くつくぞ。覚悟せなあかんで」

 わかってる、と言わんばかりに、投げやりに首を折る海斗。


「朝井純矢はおわりや。当分、シャバの空気吸われへんようなる。長い務めが待ってるからな。ま、自業自得やろ」


 知らぬ間に詐欺の加害者になっていた——。

 その現実に、未だ理解が追いつかず、何故か他人事のように(とら)えている自分がいる。その上、海斗自身も騙されていたがゆえに、被害者に対して申し訳なさはありつつも、罪の意識は(とぼ)しかった。



「で、剣士はなんでここにおるん?」

 海斗は、当初抱いた疑問をそのまま投げた。


「言うまでもないやろ。見ての通りやんけ」

「刑事? 交番のお巡りさんやと思てたわ」

「交番勤務は卒業したんや。せやけど、まだまだ新米には変わりない」

「南署の刑事いうんは初耳やったな。立花刑事の部下?」


「ちゃうちゃう」手を横に振る剣士。

「同じ刑事課ではあるんやけど係が別やねん。俺んとこは暴力犯係。主に暴力団絡みの事件を扱う部署や」

 立花刑事の部署は詐欺や横領などの事件を扱う知能犯係だと、さらに付け加えた。


「じゃあ、俺の事件には、剣士は接点ないってことか」

「そうや。わざわざ立花班長に頼み込んで内密にこさしてもうてんねん。ここでは迷惑かけんなよ」

「わかってるよ。俺も立花刑事にはお世話になってる」


 海斗は深く深呼吸をした。そして(つぶや)いた。

「まさか、こんなとこで会うってなぁ••••••」


 ふんと鼻を鳴らす剣士。

「せやけど海斗、腹くくって頑張れ。やるしかないねんから。もう二度と同じこと繰り返さんように反省しとけよ」


 海斗の肩を軽く叩いた。

「この仕事してる以上、俺は海斗にはなんもしてやられへんから••••••」



 言葉を言い置いた剣士は、視線を落とした。

 その顔には、(かげ)りが差していた——。

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