第六話
「昴◎昴A莨※」
彼女は蓮に背を向けながらそう言った。しかしながら意味がわからない。助けてやったから出ていけとでも言うのだろうか。
「ま、待ってくれ!」
情けなくもあったが、彼女との繋がりをここで失いたくない言葉が出てしまった。
日の光を反射させながら、彼女は振り返り、俺と家を交互に指をさして、もう一度同じ言葉を発した。その後スタスタと家に向かって歩き出した。
(ついてこい…?っていう事か?)
何が正解かはわからないが、この状況ではついていくしかあるまい。
「俺の名前は蓮!君は?」
家の中に入る前にそう言った。どうしても名前ぐらいは知りたかったのだ。振り返った彼女は突然の言葉に驚愕と少しの警戒を露わに俺をみる。
(やっぱり伝わらない…外国だと思ってジェスチャーも使うしかないか。)
そう思い自分を指さし『蓮』といい、そのあとに彼女を指さすという動作を何回かやってみる。
「…アリス」
彼女からはそう返事があった。恐らく名前だろう。初めて意志のキャッチボールができて感極まる。
「アリスっていうのか、改めて助けてくれてありがとう。」
身体が痛むが、ボディーランゲージは有用な様だから、精一杯お辞儀をする。
伝わったのだろうが、アリスは少し笑って頷いた。扉を開き、さぁどうぞ、と言わんばかりに、手を家の中に動かしてみせた。間違いなく招待されたのだろう、入る前に『おじゃまします』といい彼女の後に続いた。
その後、一脚しかない椅子に座らされた後、アリスは忙しなく動いている。なんだかピコピコ要領悪く動いているのが可愛らしく目に映る。
アリスは一度外に行き、木のお皿にスープと黒いパンを持って戻ってきた。それを俺の前に優しく置き、どうぞ、とでも言わんばかりに手を広げる。
決して豪華ではない。いや、むしろ日本の暮らしを考えるとかなり質素だろう。スープにはジャガイモの様なものが浮かんでいるだけだ。パンは黒く明らかに堅そうな質感をしている。しかしどうだろうか、スープとパンからは湯気が優しく立ち上り、温めて出してくれたことが伺える。
(温かい食事なんか久しぶりだ…!食べていいのか?いいよな!?)
もう我慢できなさそうだ、何ていったって森の中以来初めての食事だ。恐る恐るアリスの顔を見上げると、ニコッと微笑み返された。可愛すぎる。食べてもいいよ、という事だろう。『いただきます』そう手を合わせて、スープから口にする。
(…薄い。…が、久しぶりの食事にはこれぐらいの味付けで、温かいものが体に染み渡るのがわかる)
その一口でエンジンがかかったのか、一心不乱に食べ勧める。胃に大量の固形物を入れたせいでギュゥと臓器が動き、痛みを伴うが、お構いなしに食べ勧めていく。途中から自分が泣いているのが分かったが、そのまま完食した。
「アリス、ありがとう。そして美味しかった。ご馳走様でした。」
アリスは優しく微笑み返すとお皿を持って、外に出て行った。
(何か早急にお礼しなきゃ、渡せるものはスマホと木の実…ぐらいか?…がスマホは流石に渡せないな。)
そう思案していると、アリスが戻ってきた。俺は立ち上がり木の実を己の両手に乗せ、どうぞと両手をアリスに差し出した。…ん反応がおかしい、少しだけ嫌そうな顔をしている。
(あぁなんか毒かなんかだと思われてるのか?)
「大丈夫だ。きっと毒はないし、俺はコレで森の中を生きていたぐらいだから、きっと栄養満点なんだ。」
それでも困惑した顔は変わらない。信じてもらう為に三粒ほど口に放り込みガリガリと咀嚼する。うん、懐かしい味だ。青臭く油分を感じる。しかしなんだ、食事後に食べると渋くて食べられたもんじゃない。こんなに渋かったか?あまりの渋さに蓮は顔を歪める。
アリスは歪む蓮の表情をみて、パタパタと慌てて外に飛び出していった。戻って来た手にはコップが握られており、『レン!』と差し出してきた。中身を確認することなく飲み干した。
「あ、ありがとう…木の実…ゴメン…」
お礼をするつもりが、こんなモノを渡そうとしていたなんて、自分が恥ずかしい。申し訳なさもあってバツが悪い。
「ふふふ」
アリスは口を手で押さえながら上品に笑う。俺も木の実とアリスと交互に見て、つられて笑った。
こちらに来て久しぶりに笑った。外国語だか、異世界語かは分からないが、森の中より状況は良くなっている。大丈夫、やっていける。そう自分に言い聞かせた。




