第四話-銀髪の美少女-
あれから三時間ほど歩き続けて、支流から川の本流に合流したようだ。
「水がすごく綺麗だ…蟹とかいないかな?」
疲れ切った体ではあったが、木の実以外の選択肢を得たかった。
「革靴は濡れるとヤバいから裸足になるか…うわ、足首も足裏もグロい…」
それはそうだ、こちらに来てからは安全の為に一度も靴を脱いでいない。それに険しい道のりを慣れない革靴で歩き続けたのだ。豆は既に潰れ、皮はベロベロになっていた。見ると痛みが増すようだ。
「…っ!痛すぎる!!やめとこう。今はその時じゃない。」
酷使した裸足では、己の体重を満足に支えれなかった。それに木の実がある。蟹探しは早々に諦めて、手足を清潔にすることにした。
手のひらで水をすくい、慎重に慎重に傷口を洗っていく。
「しかし、運がいいことに獣に遭遇していなくて助かった」
そうだ、なんとなくだが、生き物がいそうな場所、通りそうな場所は慎重に進んできた。極限状態だからだろうか、前よりも気配に敏感になったきがする。これが山の気配とでもいうのだろうか。
そんな事を考えているうちに手足が乾いたので、これまた慎重に靴下と革靴を履いた。
「靴もボロボロだな。そりゃそうか。ありがとな守ってくれて」
こんな環境だからだろうか、普段より一層物事に感謝している。独り言のレパートリーも少なくなってきているのだろう。
「よし!まだお昼か?ぼちぼち出発しますか!」
そういって、ポケットから木の実を取り出して口の中に放り込む。油分を感じて美味い!
しばらく歩くと、日の光が挿す場所が増えてきた。木々が少なくなってきているのだろう。それは森の終わりを告げているようで、それだけで気分が上がる。
「あと300mぐらいか?!」
確かに開けている場所が見える。自然と足早になり、警戒が薄れたその時だった。
――GYAAAU!!
今までに聞いたことのない獣の声が響いた。
(ヤバいヤバいヤバい!!)
咄嗟に身をかがめ、近くの木に移動し鳴き声の方を確かめる。そこにはあのイノシシもどきがいた。距離にして50mぐらいだろうか。
(やり過ごせるか?やり過ごすしかない)
手元には杖替わりにしている木の棒しかないしな、そう思った矢先にイノシシもどきは、立派な角をこちらに向け突進してきた。
「嘘だろ!くそ!クソイノシシ!」
悪態をつきながらも判断は早かった。森の終わりであろう300m先まで駆け抜ける決断をした。
「うおおおおおお!!!」
これまでにない音量で叫び、己を鼓舞し走り出す。枝が頬をかすめ傷を作っていくが、そんなのは気にしていられない。
100m以上は走っただろうか、息も上がって足も上がらなくなってきた。
(走れ走れ走れ!)
その思いとは裏腹に背後に確かに気配を感じる。
――ドドドド!
(ヤバい!死ぬ!)
このままではいけない!と感じ、勘を信じて転がるように真横にローリングした。
「ぐはっ!うぅぅ」
転がるようにして回避したせいか色んな場所をぶつけ、息がまともにできない。
(あいつは?!どこだ?!)
思考もままならない体で先ほどの場所をみると、イノシシもどきは角を半分ほど木の幹に刺して身動きがとれないようだ。後ろ脚でガリ、ガリ、と地面を蹴り、抜こうとしているのが伺える。
(ヤバすぎだろ!角もクソイノシシ本体も頑丈じゃねぇか!)
戦うという選択肢はあるはずもない、相棒を使い何とか立ち上がり、森の終わりを目指す。
――GYAAOOO!!
すぐ背後で獲物を逃がさないとする鳴き声が聞こえるが、振り返ることもせず、杖を使い不格好に駆け出す。足を痛めたのか、先ほどの様には走れない。それでも相棒に体重をかけ、ヒョコヒョコと跳ぶように走る。
「いてぇ…でもあと少しだ!」
栄養不足に疲労困憊、それにダメ押しのローリング回避でボロボロだ。それでも何とか体を動かしているのは、生存本能と30mほど先に見える森の終わりだろうか。ここからでも開けた場所とわかる。
(あそこに出ればきっと!)
森を抜けてもこの状態では困難な状況だろうが、明るく開けた場所というだけで安心感と希望が持てた。
――GYAOOOO!!
「くそ!追ってきてる!行け!動け!」
そう自分に命令するが、今以上に速くは走れそうにない。森の終わりだからか、隠れたり、避けたりする木もなさそうだ。
(もうこのまま行くしかねぇ!)
背後に確かな死の気配を感じつつも、森の終わりを目指す。だが、もう肌で感じる程の距離まで接近してきている。お互いの息遣いが耳にうるさい。
(森からでた瞬間死ぬな、これ)
そう思い森から脱出した瞬間、太陽の光を全身に浴びた。
「~~っ!」
言葉にならない感情が息となって発せられた。恐怖、怒り、生存本能。噛み締めた感情だった。背後にはあと数秒で己を貫かんとするクソイノシシの気配も感じ、死を覚悟したその瞬間。
「莨※♪◇△〰!」
聞きなれない言葉の後に、頬の横を何かが通りすぎる。その何かは見えなかったが、衝撃で前のめりに倒れこんでしまった。
(なんだ?なにが起こった?!)
パニックになりつつも背後の死の気配が消えていることに気づく。なんとか身を捩じらせて確認するとイノシシもどきは左右で二つに分かれ絶命していた。
「生きてる…生きてる!俺の勝ちだっ!クソイノシシ!」
そういいつつ鼻水と涙で顔はきっとグチャグチャだ。それらを拭く体力もない。
(さっきのあれで、死んだんだ、誰が何が?)
原因を探るべく前方をみた。
「莨※莨※♪◇△〰?」
なにを言っているか分からないが、そこには太陽を反射するほど綺麗な銀髪の美少女が、俺の顔を警戒する様に上からのぞき込んでいた。
(日本人じゃない…でも美人で可愛い…)
そんなありきたりな感想しか出てこない。
「ありがとう助けてくれて、もうちょっと助けてください。お願いします。」
情けないが、もうこの状況は頭を下げて助けてもらうしかない。いや、もう五体投地しているな。そう思いながらも、死からの解放、人に会えた安心、それだけで意識がとびかけていた。
「莨莨※♪」
遠のく意識の中で何か、聞こえたがもうダメだ。何を言っているか分からない。限界。
思考はそこで止まり意識を手放した。




