第十二話
様々な決意とともに無事、アリスと帰宅したのはいいのだが…。もう少しちゃんとした形で渡したかった。タイミングも、言葉も、もっと考えて。
「ねぇレン?ニコニコ初めてのお買い物してたけど、何を買ったの?」
アリスが、満面の笑みでそう問いかけてくる。聞いてくれるのはいいのだが、もっとこう…こちらのタイミングで切り出したかった。隠す事ではないが、ロマンティックに渡したかったというのが本音だ。アリスはそれなりに気になるのだろうか、少しずつ近づいてきている。仕方がない、深く息を吐きだして、観念した。
「はぁ…。アリス、その、なんだ、あの時助けてくれてありがとう。日頃の感謝を込めて、プレゼントを買ったんだ、受け取ってくれないか?」
そういって、深い青色のリボンを手渡した。アリスは予想していなかったのか、目をパチパチして少し驚いて固まっている。その瞳は少し潤んでいる様に見えなくもない。趣味ではなかったのだろうか。それとも全財産使い込んだのが不味かっただろうか…。
「…ッ!俺なりに日頃の感謝を形にしたかったんだ。それにアリスの綺麗な銀髪に似合うと思って…。全財産使ってごめんなさい。でも、それでもいいと思ったんだ。」
慌てて、思いつく言い訳を早口で並べてみたが、アリスがみるみるうちに潤んでいくので、最後は謝ってしまった。女の涙は卑怯だと思う。なんだか悪いことをした気になる。
「…て。」
「アリス、ごめんもう一回言ってくれないか?」
か細い声だったので、よく聞き取れなかった。怒りを我慢しているのだろうか、少し震えている。プレゼントは失敗してしまったのだろうか。
「付けてって言ったの!はい!プレゼントなんだから、レンが私の髪に付けてよねっ。」
そう早口でリボンを渡して来るや否や、グルっと凄いスピードであっちを向いてしまった。思わずリボンを受け取ったはいいのだが、生まれてこの方、女性の髪にリボンを付けるなんてした事がないので、受け取った手が宙に浮いたまま固まっている。
「はい、どうぞっ」
急かされてしまった。
「お、おう、では…」
手に持ったリボンを一度見て、軽く息を吐いた。
そういって、アリスの息遣いを感じられる所まで近づいた。こんなにも近くでアリスの髪を見るのは初めてだが、やはりとても綺麗だ。手元にある絹のリボンと同じような光沢をしている。腰付近まで伸びている髪は、息遣いのリズムで揺れている。
「アリス、確認だが、触れてもいいのか?」
これだけ綺麗な髪だ、とても大事にしているのだろう。触れていいのかと、最終確認をした。
「…いいの。あ、暑いから、早くしてっ。」
確かに、髪の間から覗く耳は赤くなっていた。
「分かった。それじゃあいくぞ?ちなみに下手くそだからな?!」
そう保険をかけて、アリスの髪に触れた。その瞬間ビクッとアリスの体が小さく跳ねた。
――フワッ、サラッ
自分の髪とは違う物質の様だった。手元の絹のリボンの様に、体の形に合わせてその形を変える柔らかさがある。そう思いながら、アリスの髪を束ねていく。それにほんのりと、甘い匂いがした。
(ど、どこで結べばいいんだ?この辺か…?)
初めてなので、手間取っている。アリスは両手をギュッとして何かに耐えているようだ。首元辺りまで束ねて、結んだ時のクセが付かない様に、ゆるく蝶々結びをする。これで任務完了だ。
「あ、アリスできたぞ…。やっぱり上手く結べなかった。自分で結び直してくれ…。」
アリスはその場で一回転し、リボンが見える様に上体だけ捻らせて、こちらを見てきた。その表情はとても笑顔で、付け加えるなら赤く染まっていた。色白なので見間違いではないだろう。
「レン、どう?似合ってる?リボンありがとう!大事に使うからね」
気に入ってもらえたのだろうか、アリスはリボンを触りながらそう言った。
「あぁ。どういたしまして。よく似合って。思っていたより、ずっとね。それに、気に入って貰えてよかったよ。」
反応から察するに良いプレゼントができたのだろう。最初の反応の時は生きた心地がしなかった。アリスは満面の笑みでリボンを触ったり、クルッと回ったりしている。時たま見せる子供っぽさが愛おしい。心臓がドクドクうるさく脈を打ち、視界が少し揺れている。…これは、やはりそういう事なのだろう。
「でもねレン?」
ふいに、少し大人びた声が落ちてきた。
「全財産はやりすぎよ?」
「気を付けます…。」
そう、大人びて、だけど大切な事をリボンを見せつける様に、横目にそう釘を刺された。そのリボンは光を反射して、艶やかにグラデーションしている。やはり、大人びているけど、子供っぽいアリスに良く似合っている。そう思った。
しばらくして、お互い興奮が冷めて、体を休めるように、向かいあって座った。
「アリス、この世界について、魔法について教えてくれないか?」
そう、目を見て言った。




