第十話―魔法との邂逅―
あれから俺とアリスは昼下がりという事もあり、銀貨を握りしめて食べ物の屋台を目指していた。生活の質が上がったとはいえ、かなりベジタリアンに寄った食生活なのだ。畑ではお肉は育てられないのだ。
「アリス、我儘を言ってもいいだろうか。お肉食べたい。」
「うふふ、奇遇ね、私もそう思っていたの。」
という事で、屋台の通りに着いて色々冷やかしながら歩いている。おぉ魚もあるぞ、あれはクレープか?甘い方じゃなくて、お惣菜系のだ。どんな食文化のレベルかと思ったが、杞憂だったようだ。それはそうだろう、都合よく日本の方が全てのレベルが上という事はないだろう。異世界の人だって食事は美味しい方がいいに決まっている。どの世界にも何かを極める変態がいるはずなのだ。
「アリス、あれなんかどうだ?食べ歩きしやすそうだし。」
そういって、肉の串焼きを指さした。見たことある、牛串だ。日本のより豪快な肉の塊ではあるが、今の腹具合には大変都合がいい。アリスも牛串でいいみたいだからあれにするか。これくらい俺にも注文できる。
「おじさん二本、クダサイ。」
「おう、一本で大銅貨五枚だ、二本だから大銅貨十枚でも、小銀貨一枚でもOKだ。」
うむ、カタコト異世界語でも無事注文できたようだ、アリスはクスクスと手で口元を抑えながら笑っている。ゴソゴソと割り勘しようとしたので、急いで小銀貨一枚をおじさんに渡す。俺のお金はアリスに使うんだ、異論は認めない。アリスは小さく『ありがと』と根負けした様だ。
「ほらにいちゃん、ホーンボアの串焼きだ、熱々に温めるかい?」
おじさんがそう提案してきた。ん?ホーンボア?まさかイノシシもどきか?まぁ今は目の前の肉が大事だ、食べ物は温かい方が美味しいだろう、温めて下さいと素直にお願いした。『縺昴』おじさん何か言った後、左手から炎が出現した。
「うお!なんだ?!」
突然の出来事に驚き声が出てしまった。おじさんは、なんだってんだい、とでも言いたげな顔でこちらを見てきたが、あまり気にした様子は無く、串二本を遠火で炙っている。嘘だろ、多分魔法だ。記憶が曖昧になっていたが、あの時のアリスも魔法で助けてくれたのか?まじか、魔法があるのか。アリスに教えてもらおう。
「レン、帰ったら魔法について教えるね」
そう耳元でアリスが言ってきた。本当に人の考えてることが分かってるのかもしれない。俺はコクコクと頷いた。
「はいよ、火傷するなよ、まいど!」
そういってお互い串を受け取った。久しぶりの肉に生唾が止まらない。早く食べたくてベンチを探し周りを見渡しているが見当たらない。元の場所に戻れば確実だが、通りが違うので少し時間がかかりそうだ。
「こっち、早くいこっ」
アリスがそう言って手を引いてきた。どうやらアリスもお腹がペコペコだったようだ。歩くスピードはいつもより早く、ズンズンと歩いていく。少し歩いて二人でベンチに腰かける。お昼の日差しは強いから、ちょうど建物の陰になっていて最高だ。お互い目を合わせたのが合図だった。
「早速ですが、いただきます!」
串は30cm程で、持ち手に10cm余裕がある。肉は5cm角程に切り分けれれており、厚みも同程度ある肉が四つも刺さっている。かなりのボリュームだ。最後に炙ってくれたからだろう、端の部分が脂でカリッカリに焼き上がっている。力強い繊維の表面は、塩が振ってあるのだろか、脂が溶け出し艶やかだ。
――ガブッ
「…あっつ!美味っ!…ハフハフ、美味い!」
表面の薄いカリカリの層を抜けると、荒々しい肉の繊維を感じる、決して柔らかい肉ではないが、噛み締めるたびに脂が口の中に広がる、強めに振ってある塩が脂と混ざって、咀嚼の速度が増していく。実にシンプルな味付けだがそれがいい。俺は鼻息荒く、そのまま完食してしまった。ふとアリスを見ると、アリスも無言で食べ勧めている。いつもより食事の速度が速い様だ。モッモッモと小さい口でリスみたいに食べ進めている。時たま目を細めて幸せそうにしている。
(あぁ心が温かくなる幸せを感じている!)
こちらに気づいたアリスが少し恥ずかしそうに、『美味しいねっ』と言ってきたので、きっと今は久しぶりのタンパク質を嚙み締めたいだろう、力強くサムズアップで返答しておいた。アリスはまだ肉が二つ残っているのだが、アリスを凝視していては失礼だろう、手持無沙汰なので周りをよく観察してみると、うむ。なるほど。魔法はかなり生活に根付いているのか、至る所で行使している人が目に入る。
(あれは風で洗濯物を乾かしているのか?)
それにあちらでは桶を持った人たちが、一人の男に群がっている。どうやら水を受け取っているらしい。男の手からは水がでていた。魔法凄い。帰ったらアリスに絶対教えてもらおうのを決意した。絶対だ。
「レン、お待たせ。まだお昼だし、色々見に行かない?」
もちろんだ。そう頷いた。俺は今日アリスへのプレゼントを買うんだ。予算は小銀貨十四枚。ここからが本番だ!




