018-『夢』
魔物の襲撃を片付け、俺が「〈封印蘇生〉」をかけた後。
俺たちとエリスは村でより一層もてなされた。
と言っても、困窮している村に出せる食事は少なく、村人たちは自分たちの体で出来るお礼は何でもすると言った。
エリスは冗談めかして自分と俺の像を建てようなどと言い出し、乗り気になっているのに恐怖を感じた。
とはいえ、止める理由もないので放置したが。
「...いい夜だな!」
「ああ」
そして、すっかり夜が更けた時。
エリスは、俺を哨戒に誘った。
彼女は一日滞在した後夜を過ごし、翌朝に出発するという生活をしているそうだ。
その生活におそらく終わりはなく、俺は彼女に対する尊敬を深めた。
「こんなヤブ医者一人が護衛でいいのかね」
「頼もしい! 御伽話の魔法使いのようだったぞ!」
「そうかい」
俺は戯けて肩をすくめる。
実はこっそりナーシャが付いてきており、俺はエリスの真意を確かめるためにわざと誘いに乗った。
月夜の密会などではないという態度をナーシャに示しておかないと、ベナトールに告げ口をされて張り手をされる可能性が高まる。
ベナトールはそういう不純な行為を許さないのだが、俺が普通に恋愛をしたらどうする気なのか。
気になるところではあるが、怖くて試したことは無い。
「昼間、引き留めたいと思った、済まない」
「なぜ謝罪する? 当然のことだ、俺がいれば怪我人は減り、襲撃にも対処しやすくなるだろう、需要くらいは理解している」
「それでもだ。私自身のくだらない夢に付き合わせて、死んでもらっては困る! お主はすごい御仁なのだからな!」
「くだらない夢?」
そのために命を削って戦う者が、夢を貶してはいけない。
愚か者の夢では無い、挑戦する者の夢なのだから。
「その...言わねばならぬか?」
「いや、言いたく無いのであれば」
「ばかばかしく、恥ずかしい夢なのだ。誰にも打ち明けてはいない」
「夢は大きい方がいい。それを嗤う者に、夢を見る資格などないと俺は思うがな」
これだけは変わらない。
クラスで端っこにいた俺が見た夢。
その夢を笑わないでいてくれたのは両親だけだった。
もはや帰る事も叶わない。
それなら、その夢の通りに動くほかない。
「そ」
「そ?」
「それなら言うぞ、言ってやる!」
顔を真っ赤にして、エリスは俺の方を向いた。
そして、小さな口から言葉が紡がれる。
「...この地に生きる人々が、幸せに生きる事ができるようにしたい」
「ほう、どのように?」
すぐに顔を逸らしてしまう彼女に、俺は追撃を浴びせかける。
だが、「どうやって?」ではなく。
どんな風にしたいのかを、俺は聞いた。
「笑わないのか?」
「笑えるとも、幼稚な夢だとも。ただ、出来ないわけではないだろう? 例えば空の先に行きたいとか、虹を歩いて渡りたいだとか。...そういう類の夢とは違う」
「...一面が小麦畑になって、皆が笑ってそれを収穫して...前に会った旅人が、遠くの国の話をしてくれた。誰も魔物に襲われて死なない、素晴らしい場所を作りたいと私は思ったのだ」
俺は内心、それは叶ったのだろうなと思う。
ここが本当に過去の記憶の繰り返しであるならば、現代のこの場所はすべて一面の小麦畑となっているはずだ。
稲穂が風に揺れ、暖かな光が降り注ぐ地であると。
「悪くない夢だな」
「...恥ずかしい夢だ! ...タマキ殿はどうなのだ。笑える夢を見ているのか?!」
「勿論、俺の夢は...ヒーローになりたい、だった」
「英雄に...? なれるではないか」
「多くを知った後では難しい。子供の頃に抱いた稚拙な夢だよ」
両親は笑わずに...いや、苦笑しながら道を示してくれた。
消防士や災害救助、警察官と。
誰かにとっての“英雄”への道を。
それは多くの人間にとっては笑い物だろう。
俺はそれでも、その夢を抱き続けた。
「どうやら、互いに出来そうな夢を持っているな!」
「ああ、そうだな」
俺が英雄になったところで、動きにくくなるだけだが...
まあ、たまには夢を語るのも悪くはない。
夜が更けていく中、俺はエリスと長い会話をした。
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