017-『回復術師の戦い』
午後。
俺は、もう攻めてきた魔物の軍勢を前にしていた。
「スパンが早すぎるな...ゴブリンの巣は潰したばかりだぞ」
「いつもこうなのだ、戦士が休む暇がない!」
ゴードンは降ろせないので、俺は代わりにマリアベルとアルトライン、ナーシャを降ろしている。
ナーシャはこの場にはおらず、村の櫓に待機している。
まあ、あいつは度を超えた無口だ。
お喋りの場にはいてもいなくても、変わらない。
「全く...雑魚ばかりだと誉も無いね」
「油断しないでね〜」
雰囲気は緩い。
まあ、まず負けないからな。
今回攻めてきたのは、珍しい事にオークライダーの集団だった。
ファングウルフに剣士のオークが乗った群れだ。
この雰囲気は、確実にリーダークラスがいるな。
俺がそう思っていた時、風を切る音が小さく聞こえた。
直後、群れの手前に矢が刺さった。
続けて、奥にいたヘルメットを被ったオークに3本の矢が突き刺さり、絶命したのかそのまま倒れた。
「い...今のは?」
「仲間だ、狙撃成功と言ったところか」
指揮官を真っ先に殺った。
つまり、あいつらは開始の号令が聞こえず、立ち往生の状態に陥ったわけだ。
「たまには俺も、存在感を出しておくか」
「....やるの、あれを」
マリアベルが真剣な表情で聞いてくる。
当然。
開戦の号令には地味すぎるかもしれないが。
「我が声を聞け、我が声を聞け」
「毎回思うけど、地味だねえ」
仕方ないだろ。
黙ってろ。
一回はこの儀式が必要なんだよ。
「世界よ、我が声を聞け。我なるは魔術を使う者なり。我が声は理を貫き、我が術は――――」
俺は右手を掲げる。
「願いを叶える! 星魔術・壱! 〈隕星飛弾〉」
デフォルメされた星を模した魔導ミサイル。
それをぶっ放す。
瞬間的に発生した熱が湯気を発生させ、すぐに飛行の衝撃で吹き散らされる。
言っちゃなんだが、これが一番楽な魔法だ。
何故なら。
「おわーーーっ!?」
「というわけで、爆発する」
純粋な爆発が、前衛を吹き飛ばした。
それに合わせて、でかいハンマーを携えたマリアベルが先行突入する。
その後にアルトラインが入り込む。
呆然としているエリスの肩に、俺は手を置く。
「はっ!?」
「ほら、行くといい」
「う、うむ!」
剣を軽々と構えると、エリスも前に出て行った。
遠巻きに見ていたミカがこちらに寄って来る。
「滅多に使わないのに....珍しいですね」
「滅多にというほど見てないだろうに」
「......バレちゃいました?」
これを連発する地脈戦もあった。
もっと上もあるが、たまにはな。
魔力は節約する。
「クラックバーストッ!!」
どうやらエリスはゴードンと同じ職業らしい。
剣を地面に叩きつけ、地面から斬撃を飛ばして攻撃するという意味の分からない攻撃で敵を倒していた。
まあ、アルトラインの方がもっと訳が分からないか。
「幻影剣舞」という、複数の自分の武器のコピーを生み出す技で戦っている。
操作が難しい技だが、アルトラインはいかさまの天才でもあるからして、余裕だろう。
「.....いや、一匹抜けたな」
「え、どうするんですか?」
「ナーシャが処理するだろう」
可哀想に、ファングウルフを捨てて走り出したオークが、三人の壁を抜けた。
こっちに向かってくる。
矢が刺さるが、気にも留めていないようだな。
ナーシャめ、俺が何とかできるからと言ってわざと効果矢を使わないと見える。
「そういう所が、可愛くないと言っている――――」
俺は猛然と向かってくるオークの心臓に向けて、医師の杖の先端を構え、ただ一言呟いた。
「回復」
直後。
オークが苦悶に身をよじり、血を吐いて倒れた。
「.....何をしたんですか?」
「ここが回復術師の恐ろしい所だな。心臓を破壊した」
回復術で無理やり心臓を過回復させ、血圧で肉を引き裂いた、とでも言うべきか。
魔力の媒介となる血を、俺は回復術で自在に操れるレベルに達している。
これが出来るから、ナーシャは手を抜いたし、俺は基本的にベナトールに頼らない。
「人を治す、それだけの力ではないという事だ」
悪の側面を持たない力など存在しない。
強力であるという事は即ち、人を救う事も殺すこともそう変わらない。
俺は終わりつつある戦いを眺めながら、そう言った。
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