015-『英雄の少女』
翌日。
蘇生術式を成功させ、村長と遺族...いや、家族に感謝され尽くした後。
俺は貸し出された家で休んでいた。
「よかったんですか? あんな簡単に蘇生術を使っても」
「医者は患者を治すためにいる。どんな理由があっても、技術を惜しんで助けない理由はない」
俺の蘇生術は技術とは異なり、誰にも盗めない。
だから惜しむ理由はない。
「謝礼は貰っているしな」
俺は袋に入った大量の銅貨を指し示して見せる。
銀貨は大きな街に行かないと用意できないというので、二人分の治療費の相場である銀貨1~20枚ほどを銅貨で支払ってもらった。
本来蘇生術は相場が存在しないため、金貨10枚でも安い程だが、こんな集落にそんな金はないだろう。
俺は常に、相手を見て値段を変える事にしている。
医者的にはやってはいけない事なのだが(医術を権力にしているため)、俺は本物の医者ではないので知らない。
「ところで、何か外が騒がしくないか?」
「え? あ、そうですね.....」
この時間は昼時なのでうるさいものだが、それにも増してうるさい。
俺は席を立とうとするが、ミカがそれより早く立ち上がる。
「私が見てきます」
「分かった」
休んでろって事か。
俺はミカがいないのをいい事に、魔力回復に努める。
暫くすると、ミカが戻ってきた。
「あのー....何か、英雄の方が来たらしいです」
「英雄?」
一瞬、携帯電話キャリアの方かと思った。
不思議と懐かしい気持ちになりつつも、俺は彼女から話を聞く。
「この辺の集落を回っている凄い強い剣士で、魔物を抑えてるのもその人なんだそうです」
「なるほどな」
戦士などが居ないというのに、どうやって村を守っているのか気になっていたが、巡回の人間がいるのか。
俺は席を立つ。
「あの、いいんですか....?」
「仕事を奪ってしまったことを先に詫びないといけないだろう」
「.....そうですね」
不謹慎だが、その人物にとっての食い扶持なのかもしれない。
俺らが先に来て、魔物を殲滅したのは問題だ。
ゴードンも昨日巣穴を潰したしな。
「ん?」
家を出た俺だったが、家の前に居た少女と目が合った。
橙色の髪をした子で、身長も低く目が合ったのはたまたまだ。
目を引くのは、身体の三倍はあろうかという大剣か。
「すまない、ここにいると言う医師に会いたい!」
「.....俺がそうだが?」
「若いな!」
「そうかな」
「ああ!」
若い.....若いか。
まあ、院長もそうだったが、経験ある医者というのは総じて老人だ。
「私の名前はエリス、この辺で戦士をやっている」
「俺の名は環哉晴、旅の医者だ」
俺たちは互いに挨拶し合う。
相手は少女だが、侮るなかれ。
この世界では、職業の運が良ければ赤ん坊でもドラゴンより強くなれる可能性は十分にある。
エリスが右手を差し出したので、俺も膝を突いて握手に応じた。
「どこから来たのだ?」
「王都からだ」
「王都.....随分遠い所から来たのだな、マドリラ王国だろう?」
「.....あ、ああ。そうだ」
「いつか行ってみたいものだな」
マドリラ王国....聞かない名前だ。
ただ、ひとつわかる事がある。
リプトガルド....リプトガルド王国の他に、この大陸に王国を名乗る国は二つしかなく、その中にマドリラ王国の名はない。
この辺では著名なのか、それとも――――ここは過去の世界なのか。
「中で話をしよう、入ってくれ」
「分かった!」
俺は彼女を部屋の中へ招き入れた。
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