014-『村の晩御飯』
夜。
すっかり疲弊した俺は、貸し出された家で休んでいた。
結界を張らなければ外気が入って来放題の家屋だが、結界を張っているから問題ないとも言える。
魔力の方は、この非常時だ。
仕方なく、ゴブリンの血を原料とした魔力回復薬をミカに作ってもらい、服用している。
魔物は結局の所、高濃度の魔力がないと発生しないと言われている。
その血も、魔法薬や魔道具の原料となり、大いに役立つ。
「よくそんなの飲めますね」
「ポーションに変わった時点で無菌になるのは確認してるからな」
魔法や特殊能力というものは解し難い。
ミカの能力で生み出されたポーションは全て同じ性能になる。
これも職業レベルを上げて行った効果らしいが、それでも超高性能という他ない。
異世界人の職業は桁が違うとよく言われるな。
「そうじゃなくてですね...」
そう言いながら、ミカはジャーキーを苦労して噛みちぎっている。
テーブルの上の皿には、最早テンプレと化した堅焼き黒パンである。
この世界でも硬い黒パンは主流で、燃料を節約するために一気に焼いて、そのせいで長持ちするが硬くなるそうだ。
農閑期の農家の食事など、基本的にこんなものだ。
むしろ、俺たちに貴重な食事を分けてくれたということだ。
「王都の人たちがベルト肉って呼ぶのも納得ですね」
「ああ」
新鮮な肉を食える王都民は、こういうジャーキー系保存食を馬鹿にしていた。
俺も食いたくはないなとは思っていたが、食えるだけ幸せな時代になった。
「チーズも残さず食えよ」
「うえ〜」
表面を剥がしたチーズまである。
おいしくはないが、貴重な栄養が摂れる。
魔物の襲撃で多くは失われてしまうそうだが、生き残った山羊のミルクで作っているそうな。
「みんなドクターアークに戻ってるんだろうな...いいなあ...」
「こういう夜は嫌か?」
「そりゃあ環さんはずっとそんな生活してたと思いますけど、私って転移から二年しか経ってないんですよ...ずっと街でポーション作ってましたし」
そういえばそうか。
俺は五年間、最初は数人、そのうち大所帯で旅をするようになったからな。
師匠となるエルフの女性に色々教わらなければ、サバイバル能力はゼロだったに違いない。
結局あの世界は失われ、俺は師匠に名を聞くことは叶わなかった。
「これからずっとこんな生活だ、慣れておいた方が苦しまずに済む」
「そうですね...何だか、ちょっと変な感じです」
白湯にパンを浸してふやかしながら、ミカが言う。
何のことかと思えば、
「環さんは、教室だと目立ってなくて...多分私も、あんまり知らない人でした。でも、あの時とは何もかもが違うんだなって」
「ああ、そうだな」
俺は回復魔法を使わずに王都の病院で研修生として働いた。
医学チートなんか無いので、俺は一からこの世界の医術を学び、流石にそこは違うだろと言う部分を地球の知識で補完した。
院長が話のわかる人間だったから、果ては死体の解剖までやらせてくれた。
そのお陰で、今は地脈の底に沈んだあの王都の病院には、俺が作った解剖図が残っているはずだ。
「俺は先に休む、敵が来たら起こしてくれ」
「はい!」
少しでも魔力を回復させるため、俺は満腹を利用して眠った。
↓小説家になろう 勝手にランキング投票お願いします。




