第六十四話 荒んだ天候の中で
雨が降り続く中お互い傘を差さずに立ち尽くす。
強雨が降り続く中、桜華は霊璽にこう呟いた。
「続きをやろうぜ!妖力がないガタイのいいやつ!」
霊璽は笑いながら答えた。
「あぁ、いいぜ!死んでも恨むなよ!」
走り出したタイミングで双方の刀と刀がすれ違い様にぶつかる。
刀と刀の鍔と鍔がぶつかり合う。
だが、相手の力に押されそうになりながらもギリギリを保ち続けている。
やられそうなくらいギリギリの体勢で刀を構え防ぎきる。
相手との距離を空けようと下がったとき、足に違和感を感じた。
「水天 水蜘蛛」
足に糸がへばりついていて身動きが取れない。
それどころかまるで水中の中に沈んでいくぐらい足が重く感じる。
糸を斬っても斬っても頑丈で中々、斬ることができない。
水蜘蛛の方に目線がいっている間に霊璽はその瞬間を狙っていたかのように桜華に一太刀浴びせた。
背中から大量の血が流れる。
そして、徐々に意識が飛びそうになりかけている。
「なんだよ...こんなもんか?最強というやつの実力は...」
最後に聞いた言葉はそういう言葉だった。
桜華は地面に倒れ込んだ。
霊璽は桜華に近づきとどめを刺そうとした瞬間、微弱な音が聞こえその方向へ目線を向けるとそこには一人の女が立っているように見えた。
「ん?あぁ、アイツのわけねぇよな...まぁ、いいや。こいつの始末は後回しだ。
先にあの娘を殺ればいい。」
その頃...桜華が住んでいる自宅へと向かっている途中の狂死郎は町中をひたすら走っていた。
そんな中、お花は赤葉におぶられながら狂死郎の方を見つめていた。
お花は少し、微笑みながら狂死郎にこう伝えた。
「狂ちゃん!ありがとうね!」
「ん?何の話?」
「私を外へ連れて行ってくれて!昔から外に出ることがほとんどなかったから!」
「そうか...」
そのまま、家の方へ続く橋へと差し掛かろうとした時どこからか声が聞こえた。
「やっと、追いつけたぜ!てか何やってるんだ?赤葉。」
「げっ...もう来たのかよ!」
男の衣服は返り血で染まっていた。
それを見た瞬間、狂死郎は刀に手をかけこう呟いた。
「桜華は?」
「あぁ、あの坊主か?大丈夫だ!まだ殺しちゃいない。たが、もしかしたら大量に血を流しているから死ぬのも時間の問題だろうな!」
「そうか...」
前に出ようとしたとき、赤葉が狂死郎の前に出て手を伸ばしこう呟いた。
「まぁ、待て待て。ここは俺が足止めしてやるだから先にこの娘をおぶって逃げな!」
赤葉は狂死郎にそう伝え、狂死郎は頷きその場を後にした。
「なんだ?お前もあっち側に回ったのか?」
刀に手をかけそう問いかけた。
「ちょっと待てよ!少しここは話合いをしようぜ!蕗谷。」
相手が強く踏み込みながら喉元に刃を突き立てこう呟いた。
「悪いな!俺はいま虫の居所が悪いんでな!」
ため息を吐きながら赤葉はこう呟いた。
「仕方ないな!なら居合でお前が俺の体の一部を早く斬り落としたら行けよ!」
「斬り落とすのが遅かったら?」
「その時は行かせられねぇな!」
双方、距離を取り霊璽が自身の短刀を抜きそれを上に投げた。
短刀が徐々に落ちていく中、両者が走り出し短刀が落ちたと同時に刃を抜き斬り裂いた。
それは、互角のようにも見えた。
だが、わずか数秒の差で赤葉の左耳が斬り裂かれていた。
「残念だったな...」
「お前もな...」
自身の左手を見ると小指が斬り落とされていた。
あのわずかな瞬間で意図的に狙って斬り裂いたか。
本当にすごいやつだ...赤葉誠一郎!
「だが、俺の負けだ!行けよ!」
「また、機会があればやり合おうぜ!」
去り際に見せたその背中にはどこか冷たさが残っているように見えた。
桜華の家に続く橋が見えてきた頃、狂死郎はお花に向かってこう伝えた。
「お花ちゃん、もう少しで家に着くからね!」
「うん。」
橋へ差し掛かろうとしたとき、背後からわずかな殺気を感じた。
ギリギリでその殺気を感じる奴の攻撃を避けて振り返るとそこにはあの男が立っていた。
「悪いな!邪魔してでも、これも仕事だから仕方がねぇよな!」
「これ以上、誰も殺させやしない。」
「言うね!三下が!」
双方の刃が交わる。
一瞬、静まり返っていた天候から土砂降りの雨が降り続く天候へと変わっていく。
衣服は濡れている。
そして、傘すらも差していない二人は戦い続けていた。
「水天 水蜘蛛」
「そうはさせない!朽ちろ!咎音」
狂死郎の足に蜘蛛の糸がへばりついていた。
頑丈な蜘蛛の糸が咎音の能力で腐蝕していく。
「へぇ〜、便利な妖刀だな。ならこれならどうだ?」
続けて蜘蛛の糸が足と腕にへばりついた。
「同じ手が通用するわけないだろ?」
蜘蛛の糸に咎音の切っ先を当てた瞬間、腐蝕が発動しなかった。
「どうなっている?」
「単純な話さ…お前の腐蝕の能力が適応できないほどの頑丈な糸を生成しそれを放っただけだ。」
霊璽は少女に近づいていく。
その光景を見つめながらありとあらゆる感情がこみ上げてくる。
手を伸ばしながら狂死郎は叫んだ。
「殺すなら僕を殺せ!だから...彼女は...」
わずかな期間だったかもしれない。
人に比べてそれほど長い時間いたわけじゃない。
それでも...
それでも鍋を囲んで食べた記憶、そして何気ない話をしながら三人で見た光景。
あの日の思い出が自然と頭によぎる。
もっと、一緒に色々なものを見ていきたい。
もっと、良いものを食べて良い経験を積んでそしていつかは...いつかは彼女と共に歩んでいきたい。
そう、心の何処かで思っていた。
だから...彼女だけは...
少年は自身の無力さを知った。
多くの人を...できるだけ自分の目に映る人々を護りたい。
そのために刃を振るうと決めたはずだった。
涙で視界が滲んでいく。
心に閉ざしていた言葉が叫びたがっていた。
だから手を伸ばした。
救った人からお礼を言われなくてもいい。
ただ、その時の行いがいつか自分に返ってくると信じたかっただろう。
立ち上がることすらできない少女は座ったまま振り返りながら狂死郎にこう呟いた。
「狂ちゃん!今まで、ありがとう!」
にこやかな笑顔を浮かべながら頬から涙が流れているのが見えていた。
息がつまりそうになった声を無理やり出す。
「はっ?...」
彼女のにこやかな笑みが印象に残る中、地面に落ちた彼女の首を手に取り見つめながら狂死郎はこう呟いた。
「なんで...こんなこと...誰も望んじゃいない。なのになんで彼女が...」
顔がグシャグシャになっているのがわかる。
きっと、色々な思いが込み上げたからだろう。
彼女の体にはわずかながら温もりが残っているのが感じられた。
涙が枯れるくらい流れていた。
まるで、胸の中にあった愛情の器が割れて心に穴が空くようにこぼれ落ちていく。
「悪いな!これも仕事なんでね!」
その場から立ち去ろうとする霊璽に対して、狂死郎は小刀を投げた。
「なんだ?」
「これ以上、やらせはしない。」
「その娘を埋めてやらなくていいのか?」
お花の遺体を丁重に寝かせながらこう答えた。
「ごめんな!お花ちゃん...」
「お前は俺が殺す。」
強い雨が降り続く中、両者は刀に手を置いたまま睨み合っていた。
荒んだ天候になる前ぶりだったのかもしれない。
その日は空一面が真っ暗だったことを今でも覚えている。
「起きて!お兄ちゃん」
どこからかお花の声がしたようなきがした。
目を覚ますといつの間にか気絶していたようだった。
激しい痛みが体を走る。
立つこともできなさそうな状態だ。
そんな中、無理やりにでも立ち上がりこう呟いた。
「行かねぇと行けねぇな!」
わずかな妖力を感じる方向へと歩きはじめた。




