第五十八話出会い
それは今から約二十年...いや、十五年も前のお話。
妖魔と呼ばれるいわば妖怪や幽霊あらゆる類いの総称のものが蔓延っている。
それは、ここ数年間で以前より倍増していた。人の負の感情やオーラが蓄積されることで生み出される生物いや、あるいは妖力を浴びた化け物とでも言っておこう。
そして、その妖魔の類いを祓うもの達がいた。
その者たちを人は妖刀使いと呼んだ。
冬の季節が過ぎ去り、暖かな日差しが木に差しかかる。
そんな日でもお構いなく妖魔は街に潜む。
路地裏から悲鳴が聞こえる。
路地裏の方をこっそり覗くと人が得体のしれない何かに食われていた。
幽霊というには見えすぎている。
新種の生物にしては何だか不気味な形だった。
警察官に向かって大きな声でそう伝える男がいた。
「でも君!あの場にいたでしょ?あの場所で上半身を切断してどこに捨てた?明らかに切断した跡があるから言い訳できないよ〜!」
「本当だってお巡りさん!偶然、通りかかったときに見ただけだって!」
「じゃあさ!一回一緒に現場行ってみようか!」
路地裏に向かうとそこには多くの上半身がない遺体が転がっていた。
「何だよ!これ?さっきまでこんなことなかったのにいつの間に?」
警察官は動揺を隠しきれない顔をしてそう呟いた。
その時、警察官を見ていたときだった。
何か黒い影が警察官の後でじっと警察官を見ていた。
その影は徐々に警察官へと近づいていき、その影が消え何かとんでもないものが姿を現した。
チョウチンアンコウっていうものにそっくりな魚の形をした異形と呼べるものだった。
「あっ!危ない!」
警察官に向けて体当たりをかまし、そのまま横へと避けた。
「なっ!何しやがる!警察官の本官に向けて!」
そうか...もしかして普通の人にはこの異形は見えないのか?
「ごめんなさい!説明は後でしますだから今は逃げましょう!」
「あぁ?ってちょっと引っ張るなって!」
走り出してどれくらいたっただろう。
警察官も俺も息切れを起こしながら遠くへ逃げることはできたはずだった。
後を見るとそこにはあの化け物がこちらへと迫ってきていた。
走ることももうできない。
俺たちはこのまま死ぬのだろうか?
諦めかけていたその時、どこからか声が聞こえた。
「その場から動くんじゃねぇぞ!」
「はっ、はい!」
襲われる瞬間、目を開けてみるとそこには鮮やかな桜の花びらが宙に浮いていた。
「何だ?これ...イッ...テェ!ん?刃...」
「ったく!今日で何件狩り続ければいいんだ?あと、それに触るなよ!触ると怪我するぞ!」
「いや、もうしてるって...君は一体!?」
「俺か?俺はただの通りすがりの妖刀使いってやつさ!」
妖魔が叫び声を上げながらこちらへ攻撃を仕掛けてきた。
「うるせぇな〜!わかったわかった!一撃で楽にしてやるよ!」
無数の花びらが妖魔を斬り裂いた。
妖魔が砂のように灰とかして消えていった。
「ふぅ〜!これにて一件落着!」
頭を鈍器で殴るような音が響き渡る。
「一件落着なわけあるか〜!馬鹿者〜!!」
「っるせぇな〜!だったらアンタがやればいいだろう!クソジジイ!」
「わしはやらん!ただしお前ら若造がこれからを担うために今教えられることは全部教えるつもりじゃ!そして、お前はその口の利き方をどうにかせい!」
「わかったよ!頑固爺!」
「あっ、あの...」
少年は鋭い眼差しで男を睨みつけた。
「ひっ...」
「あぁ、アンタか!まだいたのか!怪我はねぇか?」
「あっ、はい!助けていただきありがとうございます!お名前の方聞いてもよろしいですか?」
「俺か?俺は志波竝桜華だ!」
男は去り際に桜華へ向けて大きな声でこう言った。
「桜華さん!改めてありがとうございました!」
桜華は少し恥ずかしそうな顔をしていた。
ーーー華身一刀流剣道場にてーーー
剣道場へ戻ると竹刀を持ち老人に稽古をお願いしている少年達がいた。
「よっ!戻ったぜ!」
桜華の姿をみた門下生らしき者たちが桜華を囲むように集まっていた。
「桜華の兄ちゃん!」
「迅平、稽古はうまくやってるか?」
他の門下生の子供たちと話をしていると一人の男がこちらへと近づいてきた。
「まったく、親父から聞いたぞ!お前、街の物をぶっ壊したんだろ?」
「っるせぇ〜!あの爺!余計なことを話しやがって〜!仕方ねぇだろ!妖魔相手に街の物とか気にしてられるか!」
「でも親父がいつもお前が壊す度、お役人や街の奴らに頭を下げて弁償もしてるんだぞ!それに、お前はいつかこの街を引っ張っていく存在になるって息子のように見てくれてるんだ!」
「わかってるよ!そんなこと...だから俺は最強の妖刀使いになって俺が護る。」
頭に手を当て、男はこう呟いた。
「俺も親父も期待してるぜ!志波竝家の次期当主さんよ!」
「おう!」
その日の夜は雨が降り続いていた。
子供たちが寝たか鹿洲の爺さんが各部屋を確認して回っていた。
桜華が寝ている部屋の戸を開いたとき、布団をめくらずに爺さんは静かに呟いた。
「寝たか...あの悪ガキは!」
戸をバタンと閉めた。
布団の中には桜華の姿はなかった。
そう、その雨は止むことも知らずにただ真っ暗な夜に降り続く。
そんな中、息を切らし走る少年がいた。
「ハァハァ...」
その少年が手に持っている刀からわずかな妖力が溢れていた。
そのせいなのか妖魔は少年を追いかけていた。
ひたすら少年が走っていき、路地裏へ逃げた先は行き止まりだった。
引き返そうと振り向いた時すでに、そこには妖魔が山程溢れていた。
「何なんだよ...この化け物は?こんなところで死にたくない...」
妖魔は嘲笑うかのように少年を狙っていた。
少年へ襲いかかろうとした瞬間、どこからか声が聞こえた。
「伏せろ!」
少年が伏せたと同時に桜華はこう呟いた。
「舞い散れ!夜桜!!」
桜華の刀身が花びら状の刃が無数に放たれた。
その刃が妖魔を斬り裂いていく中、その中をくぐり抜けた一体が少年へ襲いかかろうとしたとき、どこからか声が聞こえた。
「朽ちろ!咎音!!」
その刃が妖魔に触れた瞬間妖魔の身体が腐敗していった。
「大丈夫かい?」
刀を鞘に納め、その少年のいる方をみるとそこにはおかっぱ頭の少年が立っていた。
「お前も妖刀使いなのか?」
「君は...」
少年は桜華をじっと見つめてこう呟いた。
「なるほど!君も妖刀に選ばれた人間なんだね!紹介が遅れたね!僕の名前は不死原狂死郎!よろしくね!君は?」
「俺は...志波竝桜華だ!」
「志波竝桜華...あぁ、なるほど!そうか君があの...いや、なんでもない。ここで話すより場所を変えて話さないかい?この子もついでに送ってあげたいし」
「あぁ、いいぜ!」
少年を無事に送り届けたあと、近場の神社に移動した。
「さて、君に質問していいかい?君は、何のために妖魔を狩っている?」
「俺は...」
「その感じだとまだ、決まっていないのかな?いいよ!いいよ!焦る必要なんてないからね!僕はさ!妖魔に襲われている人や妖刀を持ちながら人を襲う者たちを倒して多くの人間を救うためにこの妖刀を使って行きたいとおもう。もちろん、最強の妖刀使いとしてね!」
「でっかい!夢だな...」
「君はそういった夢はないのかい?」
俺の夢か...
桜華は土砂降りに降り続く空を見つめながらこう呟いた。
「ありふれた幸せを護りたいかな...」
ありふれた幸せ...簡単に言えば、今俺の周りにいる奴らとこの街にいる奴らが平和に生きていられるようにしたい。
それが俺の願い事だった。
あの日まではーーー
これが俺と不死原との出会いだった。




