第五十一話 戦國人伝パート8
信長は天下統一への足掛かりとして
1576年琵琶湖のほとり(近江八幡市)にて...
安土城の工事をはじめた。
信長も現場の状況を視察しにいき、家臣に指示を実際に出していた。
「光秀!猿!これを運ぶよう指示をだしながら手伝ってやれ!」
「承りました!信長様!」
賑やかに汗を流しながら作業していく家臣や民の声が響き渡る。
それを実際に聞きながら信長はこう呟いた。
「いつしかこういった平和な日常を送れる日をつくるためにわしは早く、この戦乱の世を終わらせなければならないな!」
だが、その時間はそう長くもなかった。
足利義昭の呼びかけにより、織田信長に対しての包囲網が出来上がっていた。
そして、天正5年(1577年)10月5日から10日にかけ、織田信長に背いた松永久秀・久通父子が居城の信貴山城(奈良県平群町)で謀反を起こした。
「久秀を討ち取れ!」
家臣たちが殺気だった状態で信長に叫ぶ中、信長は何かを悩む素振りをしながらこう呟いた。
「久秀め!上杉、毛利に続けて裏切るとは...」
そこへ伝令兵から信長へ通達が入った。
「信貴山城の包囲の方が整いました!」
「わかった。下がってよいぞ!」
「ハッ!」
兵士が下がり、戦況が変わることもない状態が続いていた。
「もうそろそろ、妖刀を出陣させ門を打ち破り松永を討ち取ることが可能ではございませんか?」
「それもあるだが、できればそれを使いたくない。」
織田信長は何やら悩んでいるような素振りをしていた。
「信長様、何を悩んでおられるのだ?」
「さぁ?わしにもわからぬ!ただ、何か過去にあったのではないか?」
「そうかもしれぬな!」
家臣たちがコソコソと話している中、羽柴秀吉が刀を鞘から抜き呟いた。
「信長様からだ!皆のもの!城門を壊し松永の首を討ち取れ!」
羽柴秀吉の軍勢が動き出した。
それはまたたく間に、信長の耳へと入った。
「猿め!勝手なことを...」
織田信忠の耳にも同時に入った。
「父君!猿のやつは何を考えておられるのですか?」
「さぁ?わからぬ!」
猿が城門へ向かっている途中に城から火の手が上がった。
城内に黒煙が舞う中、松永は最後にこう言い残した。
「この平蜘蛛の釜と俺の首の二つは やわか信長に見せさるものかわ(現代訳 この名器『平蜘蛛』の茶釜と自分の首の2つは、そう簡単に信長に見せさせてたまるものか)」
そう言い残し手に持った爆弾に火をともし死んだとされている。
その後、信長は悲しい表情を浮かべながらこう言っていた。
「すまなかった...久秀!」
そう、謝りながら信長の瞳には黒い靄が溢れていた。
多分、怖い夢とも言えるのだろう。
地べたから足を誰かに引っ張られながら這い上がっていく者たちが信長にこう呟く。
「お前も早くこっちにこいと...」
きっとそれは今まで殺した民たちや武将あるいは女、子供の霊なのかもしれない。
その光景をみたとき真っ先に信長は足を掴んでくる者たちを蹴り落とし、天へとひたすら上がろうとしていた。
しかし、あともう少しというところで何者かにその糸を切られてしまう。
その顔を見ているはずなのになぜか靄が掛かり浮かばない。
あの靄がかかっている男は何者なのだろうか?
信長は目をあけ周りを見渡す。
そこにはいつも通りの光景が映し出される。
きっと、これは夢なのだろう。
きっとあの夢に出てきた亡者共は今まで葬ってきた者たちなのだろうか?
色々と考えていると突如どこからか信長を呼んでいる声が聞こえた。
「おはようございます!信長様!」
そこには光秀がいた。
「あぁ、おはよう...光秀!」
元気がなさそうな挨拶をしたせいか信長の顔をみて光秀は呟いた。
「顔の具合が良くなさそうですよ!信長様!どうなされましたか?」
「いや、大丈夫だ!それに昨日遅くまで物語を作っていてな!」
「それならいいのですが...程々にしてくださいね...」
それから毎日、寝るたびに同じような夢をみる。
自身を憎んでいる者たちが地獄で待っていると伝えている夢を...
夢をみて、三年の月日が流れた。
あの日からずっと同じ夢に悩まされている。
そんな中で、とある十五の若い美少年が信長に挨拶にきた。
「はじめまして!本日から仕えさせていただきます!森蘭丸と申します!信長様!どうぞ、よろしくお願いします!」
「頭を上げよ!今日からわしの小姓(お世話などをするやつ)になってもらう!頼んだぞ!蘭丸よ!」
「ハッ!ありがたき幸せ!」
森蘭丸が小姓として、信長に仕えるのと同じ年に荒木村重による謀反が起きた。
「荒木村重を討ち取れ!」
約十ヶ月に渡る長い籠城戦だったが荒木は自身の城に妻と子供を残し城から逃げ出した。
有岡城が落ちたことにより、その城に取り残された者たち約三十六人は京都の街を引きずり回された後六条河原にて斬首された。
謀反が終わった後、信長は酒を飲みながら街の景色を楽しんでいると炎閣が信長にこう言った。
「荒木殿を討ち取るのならいざ知らず、なぜ?一族丸ごとあんな酷いやり方で殺す必要があったのですか?」
「奴はわしを裏切り、妻や子を残して助けもせず逃げ出すあやつを恨めばよい!」
「主君を裏切ることはよくはないがそれを一族のせいにする必要などないはず...」
「じゃあ、誰が裏切った落とし前をつける?家族か?家畜か?それとも使えている家臣か?わしはただ、わしの正義を貫いただけじゃ!」
「そんな、正義...ただのエゴだ!そんなもののために私はあなたに刀を作っているわけじゃない!」
「好きにせよ!次はないと思え!炎閣よ!」
その場を立ち去る信長の背中を見つめながら炎閣は強く拳を握りその場を後にした。
「炎閣よ...すまない」
信長は立ち止まり空を見上げそう呟いた。
そして、3年の月日が流れようとしていた。
1582年 1月...
「天下まであともう少しか...」
信長は雪が降る空を見つめながら酒を飲み干す。
その光景を目にしていた光秀はこう呟いた。
「いよいよ、天下統一までわずかなのかもしれぬな!そうは思わないか?秀吉!」
秀吉は酒を飲みながらニヤリと微笑み呟いた。
「そうかもな!光秀殿!」
とある裏路地...
人気がない場所で一人の男が誰かを待っていた。
「遅くなり申し訳ございません。秀吉様!」
振り向くとそこには年老いた一人の男がいた。
「遅いではないか二代目炎閣よ。いや、こっちで呼んだほうが良いか?龍神光久」
「どちらでもお好きな方で構いませぬ!例のものをお持ちいたしました。」
それは後に秀吉が扱う妖刀だった。
「ようやく、できたか太閤天が...」
その夜は満月が照らしていた夜だった。
この数ヶ月後に起きる出来事は日本中を掻き立てた。
そう、後に語られる本能寺の変と呼ばれる出来事だった。




