第三十八話 誓いの刃
どこか懐かしい声が聞こえる。
記憶というよりも記録?
いや、どちらかというと血に刻まれた何か?なのかもしれない。
身体はボロボロになっていたはず...
それに心も折れかけていた...
なのになぜか心地がいい。
赤い羽織を羽織った一人の若い男が縁側に座り、とある村人と話していた。
誰だ?この人は...
「いつも、うちの娘を寝かしつけてくださりありがとうございます。」
「いやはや、気にするでない...ところでお前さん、普段は何をしておる?」
「私はただの農民です。なので、米作りなどをやっております。」
「そうか!」
「お侍様は?」
男はポツリと呟いた。
「わしはただの流浪にじゃよ...主君を殺され、友を失いただただ彷徨うだけの流浪に...」
「願わくば、この赤子らが生きる時代には争いがなくただひたすら幸せな生き方ができる時代であってほしいのぉ〜!」
「そうですね〜」
「昔、主がよく言っていたんだ。〇〇よ!お前は何のためにその刃を振りかざすと...わしはその時、答えられんかった。でも、今なら言える。これから産まれくるこの赤子らが生きる次の時代に争いをなくせるそんな抑止力になると...だからわしはあと残りの年月を願いを込めた一振りに注ぐ。刀を作るために...」
「なら...その刀を作る手伝いをさせてください!助けられているのでせめて、それくらいはさせてください!」
男は微笑みながら呟いた。
「分かった。」
その男は長髪の黒髪だった。
どこか見覚えがある。
でも、今ならなんとなく分かった気がした。
その男が誰なのかが...
曇りかかっていた空が晴れ、太陽が照らしはじめた。
「...グッ...ハ...」
頭がまだ、クラクラしている。
それに全身が思うように動かせない。
それでも...
ゆっくり立ち上がった。
身体が悲鳴をあげている。
痛い...
辛い...
そんな言葉が頭をよぎる。
「ハァ...ハァ...」
千尋は振り返りざまに呟いた。
「まだ、立ち上がるか?」
「まだだ...まだ、倒れるわけにはいかない。」
暗い闇が照らす空の下で、ただひたすら多くの涙を...多くの悲しみを...
無くすために少年は再び立ち上がる。
ただ、一つの約束を果たすために...
「剣よ、お前がもし何かに殺られそうになったとき、わしが作った一振りがきっとお前を守ってくれる。だから立ち止まるな!足掻き続けろ!そして多くの者たちを救ってやれ!」
遠くから千代の声が聞こえる。
「剣!これを受け取って〜!!」
千代が精一杯の力でその刀を投げた。
鹿洲はかすかな笑みを浮かべその光景を見つめていた。
剣...志波竝から預かっていた妖刀をお前に貸す!だから負けるなよ!
その刀を左手で受け取り、顔の前で鞘から刀を抜いた。
分かっているよ!爺ちゃん!もう同じ悲しみを繰り返させないために...もう一度俺は...刀を取るよ。
そして、続けて千代に小さな声でつぶやいた。
「ありがとう!千代」
刀を抜いたと同時に無数の泡のようなシャボン玉が剣と千尋の周りの宙に浮いていた。
それはかつて、若きの日の桜華が倒した妖刀使いが持っていた水属性の刀だった。
その妖刀の名は...水天
「なんだ?この泡みたいなのは...」
触っても割れることはない。
「水天 碧空」
シャボン玉のような丸い形から槍のような形へ変わった。
その水槍のような槍が千尋へ降り注ぐ。
それを躱しながら剣の方へ向かっていく。
刃と刃が交わる。
無数の斬撃が剣に放たれた。
「水天 鯊波」
鮫の形へ変わり、斬撃を食らい尽くした。
まるで、筆を持つように滑らかな線を描くかのように刀を握った。
「さっきまでと動きが違う...なんだ?この水彩画のような滑らかな剣術は?」
足元に無数の落とし穴のような仕組みが出来上がっていた。
「水天 水蜘蛛 漠」
「しまった...罠だったか」
「これで終わりだ!」
喉元へ刃を突き立てた。
「...負けたよ!剣くん」
「敗北は許さない...まだ、立ち上がれ!我妻千尋!!」
拍手が鳴り響く。
「さぁ!続きをはじめようか!獅子王 剣!」
周りを豊臣兵士たちが囲んでいる。
「僕と戦いたければここに来い!獅子王 剣!」
剣と千尋が立ち上がってお互いの背後にいる兵士をなぎ倒した。
「これ以上お前らの思い通りなんてさせない。」
剣は敵の刀を拾い呟いた。
「今目の前で泣いている女の涙すら守れねぇ奴らに...刀を持つ資格なんてねぇよ!」
まるで鬼神が如く、次々と向かい来る敵を薙ぎ払っていく。
炎閣は微笑みながらこう呟いた。
「私たちが成せなかった願いはいつかのあの物語の少年に託され、そしてその少年はもう一度刀を手に取り泥まみれの戦場の中を鬼神の如く駆け出した。きっと、儂らの時代にも必要だったのだろう。彼のような誰かに手を差し伸べられる侍の魂を宿した男が...きっとこの腐った今を変える。」
次々と立ちはだかる敵の群れを蹴散らしていく。
まるで、戦乱の世を駆け抜けた侍のように...
冥洛の元へと突き進む。
刃と刃がぶつかり合う。
「やるじゃないか?獅子王 剣!でも、君ごときに負ける僕じゃない!」
「冥洛!お前は俺が討つ!」
両者の激しい斬り合いがはじまった。
無数の斬撃が剣に襲いかかる。
それを糸も容易く、水天の力で防いだ。
「水天 水船 凪!」
無数のシャボン玉のような泡が一つの大きな泡へと変わる。
無数の斬撃を巨大な泡がすべて吸収した。
「届け!凩」
冷たい刃風が剣に襲いかかる。
それを無数のシャボン玉のような泡で包みこんだ。
「やるね〜!!でもこれはどうかな!」
刀を構え、剣に襲いかかる。
剣の腹に衝撃が走った。
剣が岩へ吹き飛ばされる。
「イテテテ...」
立ち上がり、刀を強く握る。
刀に蒼く揺らめく炎を纏った。
炎閣は微笑みながら呟いた。
「剣よ!かつて、三代目炎閣が使っていたあの炎の名をもうじき明かすしかなかろう。」
そう、それは三代目炎閣が残した妖刀...
その妖刀は蒼く揺らめく炎を纏い、人々を恐れさせた皇を討ち取ったとされていた。
その妖刀の欠片を三代目は自身に取り込み、自身の血に刻んだ。
幾星霜の時を重ねて彼の中にそれは宿っている。
その妖刀の名は後にこう語られた。
焔火と...
群青色に燃えさかる炎が刀身に宿る。
その炎は暖かくて優しく包み込み、この国を...この世界を優しく包むのだろう?
鮮やかな青色の炎が照らし出す。
その光景を目にした炎閣は頬から涙を流しこう呟いた。
「お館様...我々が願っていた戦のない世のためにあの四重奏の少年はどんな困難にも立ち向かっております。もうすぐ、平和の世がようやく訪れそうです!」
空を見つめて炎閣は涙を流しながら呟いた。




