第二十一話 消えゆく炎の後に
まるで長い長い夢を見ているようだーーーその夢は若い男が俺の方を見て、微笑みながら何かを語っていた...
でも、その言葉を俺は知っている気がする...
どこからか声が聞こえる...
誰かが俺を呼ぶ声がする...
誰だろう...
その声は徐々に大きくなりやがて何らかの衝撃が脳に走った。
「大丈夫か?剣!!」
「その声は...晃作...」
言葉が出ないほど、喉は枯れていた。
迦楼羅の刀身を見つめる。
その刀身の炎は徐々に消えかかっていた。
刀から声がした。
「獅子王 剣!ありがとう」
「お礼を言うならこっちだよ。迦楼羅」
その灯火が完全に消えた時、迦楼羅の妖刀としての役割を終えた。
それは、桜が咲く季節を迎える前の話だった。
...華身一刀流剣道場 数日後...
道場に到着するとそこには鹿洲、志波竝、南部、篠波の五人がしかめっ面の顔をしていた。
「剣の迦楼羅が折れたのか...」
「いいえ、迦楼羅自身の意思がないのでこの妖刀はもう...」
それを聞いて志波竝は一言呟いた。
「迦楼羅の他にお前の祖父が残した刀はあるのか?」
「それが...ハッキリどの刀が祖父が残した刀か見分けがつかないことが多くて...」
剣は困った表情でそう呟いた。
「そうか...」
静まり帰る中、鹿洲は立ち上がり剣の方へ寄って肩にポンと手をのせ一言呟いた。
「俺の刀を貸してやる!妖刀ほどではないが良いものだ!」
「いいえ、結構です!」
少し、圧力をかけて鹿洲は続けて言った。
「はやく、とれ!」
その圧力に負けて渋々、刀をとってみると迦楼羅よりも軽く、迦楼羅よりも刀が抜きやすくなった刀だった。
「この刀、迦楼羅よりも...」
「お前が使いやすいように俺が刀鍛冶に頼んでおいたやつだ!大事に使えよ!」
「ありがとうございます!」
「それは、良いとして剣!」
「はい!」
「お前に華身一刀流の全てを叩き込む!」
「俺に華身一刀流を...」
「そうじゃなきゃ、妖刀に対抗できねぇだろよ!」
志波竝はそう呟いた。
時刻は午後を周り、夕暮れが彼らの影を照らしかける頃に志波竝は何処かへと向かおうとしていた。
「さてと、そろそろ行くとするか...」
山を登り、絶景が見える丘へと志波竝は足を進める。
その丘には大きな桜の木があった。
その木の下には石が積まれていた。
水桶に水を汲み、水桶をそっと地面に置いた。
「一年ぶりに来てやったぜ。狂死郎...
お花...」
そこには石で削られた様な後があった。
不死原 狂死郎 享年15歳
お花 享年13歳
と刻まれていた。
「元気にしてたか?」
他愛もないを日が暮れてもしはじめた。
この1年を通して、起きたことそして獅子王 剣との出会いと仲間たちとの出会いなどを...
「って言ってもお前たちはもう成仏してるかもしれねぇけどな!ありがとうな!話を聞いてくれて!わりぃ、そろそろ行くわ!また、1年後もし時間があればきて話すよ!」
立ち上がろうとしたとき、背中から温もりを感じた。
微かな声でありがとう!お兄ちゃん
そんな風に聞こえた。
少し、穏やかな笑みを浮かべ志波竝は答えた。
「おう!じゃあな!」
その桜の木は桜の花びらが常に舞っていた。
桜が咲く季節になる前に...
...華身一刀流道場...
玄関には鹿洲が空を見上げながら誰かを待っていた。
「遅かったな!桜華」
「わりぃ、わりぃ。ちっと長話しすぎてしまった。」
「どうだった?あの場所は?」
「変わんねぇよ...あの日から...」
「そうか...変わらないか...」
「お前は何してたんだ?鹿洲」
「あぁ、十五年前のことを思い出していたんだよ。」
「懐かしいな。」
...翌日...
足の踏み込みを早め、鹿洲の胴体目掛けて斬りかかった。
「はぁ〜〜〜〜〜!!」
「遅い!」
鹿洲の重い竹刀が脳天を直撃する。
イッテェ〜〜〜〜!!
「相手の動きを読まねぇでそのまま、向かってくるのは駄目だぜ。」
「相手の動作を読みながら戦わなければ自分がやられる。その前に、相手の目線を見るんだ。相手が何処を見て何に視点を置いているのか?お前は筋はいい。あとは、相手の目線を読むこと。
そして、今まで妖刀だから使えたものも今はない。」
「言われなくても分かってるよ。」
「なら出来るよな!」
圧力をかけられながら、何度も何度も鹿洲に挑む。
「剣速が落ちてる!」
「ちょこまかしすぎ!」
「怖がるな!」
ハァ〜ハァ〜
息が上がってもう立ち上がる力すら無くなりそうだ!
「仕方ねぇやつだな...今日はここまでにしてやる。」
「ありがとうございました!」
井戸で汗をかいた顔を洗っている時に何処からか声が聞こえた。
「な~にやってるの?剣」
「何だよ!千代。」
「もしかして機嫌悪い?」
「べっ、別にそんなんじゃねぇし」
剣は頬を赤らめながらそう呟いた。
「も〜う照れちゃって!!」
剣のおでこを軽くデコピンした。
さらに剣は頬を赤らめた。
そんな剣を見て千代は一瞬、顔を背けた。
剣を見ていると何だか心が踊るような気がしてる...
その二人を影から見ていた葉月が声をかけた。
「お二人さん!もう少しでご飯ができるって!」
2人は顔を背けながら気まずそうにしていた。
「あれ?お邪魔だった?」
2人は首を振りながら
そんなことないよ!
そんなことねぇよ!
と同時に呟いた。
「あらあら、ずいぶんと仲良しだね!千代ちゃんこっちおいで!」
道場の近くの川辺のほとりで2人きりで何かを話していた。
「千代ちゃん!単刀直入に聞いていい?剣くんのこと好き?」
「なっ、なんでそんなこと聞くんですかぁぁぁ〜?」
葉月は笑いながら答えた。
「私にも好きな人がいるの!」
小鳥のさえずりが聞こえる中、少女達の声が密やかに聞こえる。
まるで、自然のなかで過ごしているような感覚...
「で?どうなの?千代ちゃん!」
「そっ、そりゃ〜...何というか」
千代は左右の指をツンツンとつきながら頬を赤らめて呟いた。
「好きですよ!そりゃ〜」
「千代ちゃん!」
葉月が千代の耳元で囁いた。
「葉月ちゃん!?」
「かわいいね!」
千代の顔は真っ赤になっていた。
涼しい風が頬をかすめる。
時間はあっという間に夜になっていた。
晩飯の支度を済ませ、みんなが一つの卓を囲っていた。
「さて、飯にしようか!」
せーの、いただきます!
まるで宴会や、祭りのように賑わっている中を見ると昨日までのことが無かったように感じられる。
今頃、もし爺ちゃんや俺の家族が生きていたら...そう思ったら涙が溢れてきた。
「おいおい!どうした?剣!」
「泣いてんじゃねぇよ!お前の魚食うぞ!」
「誰がお前にやるかよ!晃作」
本当にいい仲間を持った。
そう思えた日だった。
夜の風が頬をかすめる。
それは心地が良く、眠気すら誘う。
「眠れないのか?剣」
「いえ、考え事をしてたんです。」
「考え事?」
「はい!この平和がいつまでも続けられたらいいのにって」
「お前らしいな!俺は嫌いじゃねぇぞ。」
庭に咲く花をみながら、桜華は呟いた。
「剣...お前は桜は好きか?」
「はい!好きです。色々ある花の中では...」
「そうか!河津桜って知ってるか?」
「知ってます!」
「花言葉は?」
「いいえ、そこまでは...」
「そうか...まぁ、いいや。また気が向いたら話すとするよ。」
「わかりました!ではそろそろ寝ますね!おやすみなさい。」
庭の花をみながら、桜華は呟いた。
「お前らにも見せてやりたかったよ...剣、もしかしたらもう話す機会すらもそんなにねぇのかもな...」
ゲホゲホと咳が出た。
手のひらを見つめるとそこには血がついていた。
「俺には時間がないのかもな...」




