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卑弥呼のシェフ 〜世界大会優勝の料理人、弥生時代で料理無双してたら卑弥呼が私物化しようとしてくる〜  作者: ポルカ


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作り出された太陽



 季節は深く秋へと傾きつつあった、ここ数日。


 王宮の広間では、宰相タケヒコが安堵の表情を浮かべ、玉座の卑弥呼に報告を行っていた。


「陛下。西の海辺の漁村にて発生していた『呪い』の件、無事に解決いたしました」


「うむ。海女たちが次々と胸の痛みを訴えて倒れ、近寄るだけで金属がボロボロに腐り落ちるという、あの忌まわしき噂か。して、その正体は何であったのだ? 海神の怒りか、あるいは悪霊の類か」


「いえ、それが……またしてもサク殿の働きによるものですが、どうやら未発見の『鉱石』が原因であったようです」


 タケヒコの説明によれば、海女たちが恐れていた「呪われた洞窟」には、高濃度の亜鉛を含む鉱脈が露出していたというのである。


 そこで焚き火をした際、石に含まれる成分が気化して有毒なガスとなり、それが海女たちを苦しめ、湿気とともに金属を腐食させていたらしい。


 朔はその危険な場所を特定するや否や、逆にそれを「宝の山」と呼び、安全な採取方法を村人に指導して、大量の石を都へ持ち帰ってきたのだった。


「あの男にかかれば、呪いすらも資源に変えてしまうということか」


 卑弥呼は苦笑しながらも、その瞳には期待の色が浮かんでいた。


「して、サクはその石から何を作り出したのだ」


「はい。そうおっしゃるかと思い、待たせてあります」


 タケヒコの合図とともに、朔とユズリハが、卑弥呼の私室に入室した。

 彼らの後ろには、布で覆われた台車が運ばれてくる。


「陛下、タケヒコ様。西の村で見つけたのは『亜鉛』という金属の鉱石でした。本日はこれを用いて、三つの献上品をご用意しました」


 朔は自信に満ちた顔で一礼すると、最初の一つの覆いを取った。

 そこにあったのは、美しい黄金色に輝く「すず」だった。


「おお……」


 卑弥呼が目を輝かせる。


「これは、金か? いや、少し色味が違うな」


「はい。今回見つけた亜鉛と、手持ちの銅を溶かし合わせた合金、『真鍮しんちゅう』でできています。もはや毒はありませんので、触っていただいても大丈夫です」


 卑弥呼がそれを手に取り、振ってみる。


 チリン、チリン……。


 これまで彼女が知っている大陸から手に入れた青銅の鈴の、ブオーンという低く鈍い音色とは全く違う。


 それは天にまで届くかのような、清らかで高く澄み切った音色だった。


「なんと……美しい、音色……」


 彼女はその神聖な響きに、うっとりと聴き入った。


「見た目も音も美しい。これならば、祭祀の道具として、民の心も洗われるであろう」


「ありがとうございます。では、二つ目に」


 朔が次に示したのは、大きな水瓶と一体化した、奇妙な装置だった。

 彼はそれを『蛇口じゃぐち』付き浄水装置だと説明した。


「水瓶から水を汲む際、柄杓ひしゃくを使うのは手間がかかりますし、水が汚れやすい。ですが、この真鍮で作った『蛇口』を使えば……」


 朔が実演として、取っ手をひねる。

 すると黄金色の口から、清らかな水が細く美しく流れ出した。


「な、なんと」


 卑弥呼はそのあまりに文明的な光景に、言葉を失った。

 重力に従って水が落ちるだけのことだが、その「止める」「出す」を自在に操る機構は、この時代には魔法に等しい。


「好きな時に、ここから飲めると申すか」


「はい。内部には先日お見せした木炭や銀を用いているので、常に清浄な水が飲めます」


「……そ、そんなことが」


 卑弥呼は実際にやってみて、その水を口にする。

 そして、満足げに頷いた。


「……これは、この私室に置かせてもらおう」


 蛇口をひねるだけで簡単に水が手に入る利便性に、卑弥呼はすっかり魅了されていた。

 だが、朔の表情はまだ終わっていないと言いたげだった。


「陛下。最後にお見せするのは、まだ限りがありますが、強力な奇跡です」


 朔は最後の台車の覆いを取り払った。


 そこには、精巧な木製の釣灯籠つりどうろうのようなものがあった。

 だが、油皿はない。


 代わりに、ガラスの球体が吊り下げられている。

 ガラスの中には、黒く細い、焼き焦がした竹の繊維が入っていた。


「油を使わぬ灯火ともしびにございます。陛下が夜、読んだり書き物をなされる際、手元を照らすのにちょうど良いように作りました」


 タケヒコが、ふむ、と言いながら、近寄ってくる。


硝子ガラスの中に炭が入っているようだが、この灯火にどうやって火をつけるのだ?」


 タケヒコが怪訝な顔をする。

 すると朔は、懐から小指ほどの太さの、小さな銀色の筒を六つ取り出した。


「これを使います。先ほどの亜鉛を極限まで薄く伸ばして『器』にし、中心に焼き締めた『炭の棒』を通しました。隙間には黒い石の粉と酢を混ぜた糊が詰まっています」


「なんと奇妙な……。その小さな筒が、燃料なのか?」


「はい。これを『乾電池』と呼びます」


 朔は手際よく、灯籠の台座部分にある木の箱へ、六つの筒をはめ込んでいった。


「二つを縦に繋いで勢いを強め、それを三列並べて長持ちさせる配置にしてあります。これでまるまる一晩使えますが、明かりがつかなくなると、電池は六本すべて入れ替えになります」


 パチン、と朔が木箱の蓋を閉め、側面にある小さな突起スイッチを押し込んだ。


 その瞬間。


 カッ……!


 ガラス球の中の黒い繊維が赤熱し、次の瞬間、直視できないほどの眩い光が弾けた。


「な……!?」


「うおおお……っ!」


 卑弥呼もタケヒコも、あまりの衝撃に玉座から立ち上がった。


 広間の隅々までを照らし出す、神々しいまでの光。

 揺らぎを知らぬそれは、まるで、小さな太陽だった。


「馬鹿な、なんという明るさだ!」


「サク殿……こ、これは……火ではないのか? 煙も出ておらぬ!」


「はい。例えて言うと、雷の力を使っている感じです」


 朔は灯籠を持ち上げると、卑弥呼の前にあった机の上にかざしてみせた。

 手元の文字が、昼間のようにくっきりと浮かび上がる。

 いや、昼間以上に明るい。


「サク……そなたは……」


 卑弥呼は震える声で呟いた。


「天の雷すらも手懐け、小指ほどの筒に収めるとは……もはや人の技とは思えぬ」


 それは畏怖に近い感情だったが、それ以上に、この国が手に入れた「力」への興奮が勝っていた。


「……サク♡」


 卑弥呼は、玉座を降り、朔の手を取った。


「見事だ! まさか夜闇の中に太陽の光までもたらすとは! そなたこそ、この国の真の宝よ!」


 興奮冷めやらぬ女王の手を握り返しながら、朔は申し訳なさそうに眉を下げた。


「ありがとうございます、陛下。ただ……一つだけ問題がございます」


「む? なんだ?」


「この電池の中に必要な『黒い粉』が、まだ十分な量が手に入っておりません。現状では、陛下とタケヒコ様の分を用意するのが精一杯で」


 朔は、まだちゃんとした鉱脈が見つかっていない、二酸化マンガンの不足を正直に伝えた。


 現在、用意できている電池の換えは20本程度。

 毎晩使えば、3日と保たない。


「使い方を制限せよということだな」


 タケヒコが顎をさすりながら言った。


「はい。見つかるまではそうさせてください」


 ただ、期待はある。

 亜鉛のそばに、二酸化マンガンの鉱脈も併存することが少なくないのである。


「といえど、緊急時にすぐ明かりがつく利点は、なにものにも代えがたいでしょう。そういった折や、一瞬だけ明かりが欲しい時などにお使いください。ほかは、以前お作りした『弥生リフレクターランプ』の方を使っていただければと」


 植物油の方は大量に用意できています、と朔は付け加えた。


「ふふ、なるほど。サクよ。それでも十分にありがたいぞ」


 卑弥呼は満足げに頷き、愛おしそうに、輝くガラスの太陽を見つめた。


 朔のおかげで、夜に襲われる恐怖が幾分でも和らぐというものである。



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