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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第三話

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第三話ーー晴れーー56

 二人は駐車場を出て、直進をすると長柄の交差点の信号で止まった。


 康二は希に話かけた。


 「ここを直進すると、有名な海岸道路、国道134号だよ。海までもうすぐ」


 「すっごい楽しみです!」


 希が興奮を隠しきれないように言うと、康二が笑って言った。


 「だけど、渋滞は覚悟してね。特に鎌倉を過ぎたあたりからね」


 「そんなに渋滞するんですか?」


 希が心配そうに聞くと、康二は意味深な笑顔で言った。


 「うん、するよ」


 信号が青に変わり、二人は交差点を渡り、国道134号に入った。


 交差点を抜けると、すぐに長柄隧道だ。


 また、トンネルだ。あとで、なんでトンネルが多いか、康二さんに聞いてみよ。


 希はそう思っていた。


 「あっ!!」


 隧道を抜けると希は思わず声を上げた。案内標識に江ノ島、鎌倉と書かれていたからだ。

 希は、書かれている文字を見ただけで、心拍数が上がるのがわかった。


 旅の目的地が近くなれば、誰もが興奮すると共に、ほんのちょっとの切なさも感じる。移動の行程が楽しければ尚更だ。


 希も同じだった。


 半日も康二と一緒に走っていないのに、康二は常に寄り添っていろいろな経験をさせてくれた。常に自分の事を第一に考えてくれた。バイクがこんなに楽しい物だと初めて知る事ができた。まだまだ、康二と二人で走りたいと思った。


 希は目的地が近づいた嬉しさと、ちょっとした切なさも感じていた。まだ、着いてもいないのにだ。それだけ希にとって、何物にも変え難い経験だったのだろう。


 渚橋の交差点を渡ると、康二は希に左側を見るようにとハンドサインを送った。


 「わわっ!!海だ!!!海だ!!!」


 左側には綺麗な砂浜と海が広がっていた。逗子海岸だ。数多くの人が思い思いに散歩を楽しんだり、マリンスポーツを楽しんでいる。


 希はヘルメットのシールドを開けた。すると、潮の香りと初夏の爽やかな風が飛び込んできた。


 気持ち良い!!潮の香りもサイコー!!!


 希のテンションは上がりっぱなしだった。


 江ノ島まで10km?もうすぐだ!


 希は、距離表示版を見て思った。車もまだそんなに混んでいるわけではない。順調に行けば、30分も走れば江ノ島に着く……はずだ……


 やっぱり、なんかオシャレな雰囲気。


 希は、海沿いに並ぶマンションや、カフェレストランを見ながら思った。


 二人は海岸に沿った緩やかなカーブを走り抜け、砂浜が終わったところで大きく左にカーブをしたところにある、右側に小高い丘の崖の下の駐車場の横を進んだ。

 

 実は、康二はこの先にある景色を希が見た時の反応が楽しみだった。康二は、この景色が好きだった。


 しばらく走ると、道は海沿いを逸れてトンネルに入った。伊勢山トンネルだ。


 伊勢山トンネルを抜けると、さっきまでと雰囲気がガラリと変わり、また山の中を走っているようだった。


 海が見えなくなっちゃった。ずっと海岸線だと思ったのに……


 希はそう思うと、またトンネルが見えてきた。飯島トンネルだ。


 また、トンネルだ……でも出口が見えるから短いかな……


 希はそう思いながらトンネルに入った。


 短いトンネルを抜けると、その先は……


 うわっ!海だ!!


 そう、トンネルを出ると、視線の先に海岸が見えた。ここは、海岸線よりも標高が高く、道路は、ここから海岸線に沿って曲がる。だから、トンネルから出た直後から曲がるまでの間、目の前の材木座海岸を広く見渡せるのだ。天気が良ければ江ノ島まで見える。そして緩やかな坂を降りながらカーブを曲がると、左側に材木座海岸が近づいてくる。


 康二は、ここから見る景色が好きだったのだ。希に見せたいと思っていたのだ。いわゆる絶景と言える程の景色では無いかもしれない。時間にしてもほんの数分でしか無いかもしれない。車でおしゃべりに夢中だったら、見逃してしまうかもしれない。


 だが、バイクは身体がむき出しな分、全身で変化を感じることが出来る。トンネルを抜けた時の空気の違いを、海から吹いてくる風の違いを感じる事が出来る。


 そして、一緒に走っている人によって、景色の彩が変わる……


 康二は、兄康一と初めてここを走った時から、この場所が好きになった。その時に感じた、広がる海の青さと、陽の明るさを今でも覚えている。何もかもが輝いて見えた。


 それを希にも感じて欲しかったのだ。あの時自分が感じた感動を希と共有したかったのだ。


 実はこのルートは、康一と初めて一緒にツーリングに行った時のルートだ。当時と比べると、店や建物も変わり、見える景色も移り変わって行く。だが、海から吹く風や潮の香りは変わらない。あの時、身体全体で感じた感覚は、今も変わらなかった……


 今回、康二がルートを考えている時に一番考えた事は、いかに希に楽しんでもらう事だった。今までバイクにあまり良い思い出が無いであろう希に、バイクを好きになってもらう事だった。


 そうすると、自然と、このルートが頭に浮かんだ。あの時感じた楽しい思い出が頭に浮かんだ。


 兄さんもこんな事考えてルート決めたのかな……


 実は康二は、康一が亡くなってからこのルートを避けてきた。


 別に意識していたわけではなく、ただ、足が遠のいて来ただけなのだが……いや、無意識に避けるようになったのかもしれない。


 康一との思い出が大切だったから……


 そして改めて感じたのだ、兄、康一の優しさを……


 だが、康一に教わったバイクの楽しさを希に伝えたい、そして希と一緒に、この康二にとって大切な思い出であるルートを走りたい。


 康二はそう思ってこのルートを選んだのだ……


次回の更新は27日となります

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