第三話ーー晴れーー53
二人は、料金所を出ると、その先にある待避所で止まった。
康二がバイクを降りて、希の元に向かうと、ちょっと照れくさそうに希に言った。
「この先にさ、プリンが有名なお店があるんだけどどうかな?」
「プリンですか!!」
甘い物が大好きな希は、思わずシールドを開けて、目を輝かせて言った。
「うん。お取り寄せで有名になったお店なんだけどさ。多分、テレビとかで見た事あると思うけど……」
「行きたいです!食べたいです!」
元気になった希を見て、内心ホッとした康二は笑顔で言った。
「じゃあ行こうか。ここからちょっと走ったら、黄色い看板のお店が見えるから。着いてきてね」
「はい!!」
康二は裕介と違って、女性のご機嫌取りのためにこう言う事ができる男では無い。どちらかと言うと、そう言う事が苦手な方だ。
康一と違い、甘い物好きな康二は、以前、この店を訪れたことがある。しかし、一人で店に入って非常に気まずい思いをしていた。やはり、場所柄、カップル客や女性客が多かった為だ。
康二はヤブに比べると、物腰も柔らかく、威圧的には見えないが、いい歳した男が一人でプリンを美味しそうに食べている姿は、やっぱり店の雰囲気には合わないと自分でも感じていた。しかし、その時食べたここのプリンが美味しくて、常々また訪れたいとも思っていた。
人混みや混んでいる場所が嫌いだと言ってはいても、甘い物の誘惑には勝てない。そして、もう気まずい思いをしたくは無かったので、最悪、店のメニューの研究の為にとでも言って、遥子を誘えば良いかなとも思っていた。
だが、今回のツーリングの話が出た時に、実は、ルート選定の際にこれ幸いにと、このお店に寄る事をちゃっかりと考慮していたのだ。
希の為にと言いながら、半分は自分の為でもある。こう言うところは康二も楽しんでいるのである。
希はといえば、プリンと聞いて、さっきまでのモヤモヤが吹き飛んだようだった。もちろん、プリンはキッカケにしか過ぎない。康二と同じ物を食べてゆっくり話せる事が嬉しかったのだ。
二人が待避所を出て、少し走ると、左手に黄色い看板が見えた。康二は左にウインカーを出すと、希にハンドサインで合図をした。
二人は駐車場に差し掛かると、ちょうど一台の車が出て行く所だった。
ラッキー!
康二はそう思いながら、駐車場に入ると、先程入れ違いで出て行った車のその空いた駐車スペースにバイクを停め、希を隣に誘導した。
「可愛い!」
希はヘルメットを脱ぐなり、黄色とスカイブルーに彩られた店に驚きの声をあげた。
康二は、ヘルメットを脱ぎ、休憩の時と同じように希のヘルメットを受け取ると、自分のバイクに取り付け言った。
「ここ、店内にカフェレストランもあるんだけどさ、お昼ご飯は江ノ島で食べたいから、持ち帰り用のプリンをここで食べようか?」
「はい。良いですよ」
何も知らない希は、康二の言ったことを少し不思議に感じた。
別に、ここでお昼ご飯食べなくても、カフェでゆっくりお茶しながらプリンを食べても良いんじゃ無いかなぁ?
もちろん、これには康二なりのささやかな企みもあったのだが……
二人は店内に入ると、昼時という事もあり、レストランカフェスペースはそれなりに混雑していた。
店員が二人に声をかけた。
「お食事ですか?お持ち帰りですか?」
「持ち帰りで」
康二がそう言うと、二人はテイクアウトスペースに案内された。
「わっ!凄い!」
希は思わず声をあげた。テイクアウトスペースに行くと、ショーケースにはたくさんのビーカーに入ったプリンが並んでいたからだ。
「何にする?この店舗限定の物もあるみたいだけど」
「悩みます、みんな美味しそうで。ティラミスも良いし、抹茶も美味しそう……」
可愛いな……こう言うところは女子大生だな……
ショーケースに並んでいるプリンを前に悩んでいる希を見て康二はそう思った。
考えてみれば、希ちゃんのこう言う普通の女の子っぽいところをあまり見た事が無いかも……
康二は、そう思っていたのだが、朴念仁の康二だ。普段、年相応の女の子らしい所を希が見せても、康二が気が付かないだけである。今、改めて気が付いただけだ。ひどい男である。
「どうしようかなぁ。ここはやっぱり初めてだし、一番人気のプリンにしようかなぁ。ねぇ、康二さんどう思います?」
「…………」
「康二さん?」
「あっ、ごめん、ごめん。うんそれで良いと思うよ」
康二は、プリンを選んでいる希に見惚れていた。
「話聞いてましたぁ?」
希はイタズラっぽく笑って言った。康二は、ドギマギしながら答えた。
「一番人気のプリンにしようとしたんでしょ?良いんじゃない?今度来た時に違うの食べれば良いんだし」
「えっ!?」
希も康二のこの発言にドキッとした。
この朴念仁、これわざと言ってないよね?
希はそう思いながら言った。
「じゃ、私はこの一番人気の北海道フレッシュクリームにします。康二さんは?」
「僕はカスタードかな」
「はい、かしこまりました」
店員は二人のオーダーを聞いて、ショーケースからそれぞれのプリンを取り出した。
「あ、スプーンも2つ下さい。それと、紙ナプキンも」
「かしこまりました」
康二が会計をしようとすると、希が慌てて言った。
「ダメですよ。ここは私が出します」
希は、コンビニで缶コーヒー代を出してもらった事を覚えていたのだ。
「良いから良いから、社会人の僕にカッコつけさせて?今度缶コーヒー奢ってもらうからさ」
康二は笑いながらそう言うと、会計を済ませて箱に入ったプリンを受け取った。
「わかりました。ご馳走様です」
希はそう言うと、ぺこりと康二に頭を下げた。
「気にしないで。僕も食べたかったんだからさ」
康二はそう言って、笑った。
「アイツら、今どこら辺かなぁ」
今度は、ヤブが遥子の店でぼやいていた。その隣にはペンキ屋が澄ました顔でコーヒーを飲んでいた。
「全く、今度はコイツらかよ」
遥子は、心底嫌そうな顔でこの二人を見て言った。やっと、隣のオヤジ二人を追い出したばかりなのに、入れ替わりでこの二人が来たからだ。
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