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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第三話

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第三話ーー晴れーー54

 「ひどいなぁ遥子ちゃん。一応、俺たち客だよ?」


 ヤブがそう言うと、遥子は言い返した。


 「こんな、図体のデカい、ぼやいてばっかりの客なんていらねえよ。他のお客さんが逃げちゃうだろ!」


 「はは、そりゃそうだ」


 ペンキ屋が他人事のように笑うと、遥子はペンキ屋にも文句を言った。


 「オマエも他人事のように笑ってんじゃねぇんだよ。こんな、デカいの連れて来やがって」


 「何だよ、ヤブのせいで僕まで怒られちゃったじゃんかよ」


 ペンキ屋がヤブに文句を言うと、ヤブがまたぼやいた。


 「だってよぉ」


 「だってよぉじゃないよ。全く」


 遥子が怒りながら言うと、ヤブが答えた。


 「やっぱり、気になるじゃん?アイツら、二人っきりのツーリングデートだぜ?」


 「別に良いじゃん。それくらい。だから、ヤブもナンパして来いって言ってるだろ?」


 ペンキ屋がヤブに言うと、灯が二人の話に首を突っ込んできた。


 「なになに?何の話?」


 「うん?康二のツーリングデートの話」


 ペンキ屋が灯に言うと、灯が言った。


 「ああ〜、それでなんでヤブがぼやいてんの?」


 「うん?彼女がいないヤブとしては羨ましいんだって」


 ペンキ屋がそう答えると、ヤブが思い立ったように言った。


 「よし!俺もバイクに乗っている可愛い子を見つけてやる!その為にはとりあえず合コンだ!!」


 そう言いながら、スマホをいじり始めると、灯はヤブにグーパンチを叩き込んだ。


 「な、なんで?」


 「そう言うとこだぞ!ヤブ!!」


 灯はそう言うと怒って行ってしまった。


 「俺、何か悪いこと言った?」


 ヤブは困惑してペンキ屋に聞いた。


 「さあねぇ。ね、姉御」


 「そうだな、図体がデカいだけの奴にはわからないよ」


 この二人は何かを察しているようだが、ヤブは何もわからない。


 「何だよ、二人してさ」


 そう言うと、ヤブは拗ねてしまった。


 「けどさ、姉御も気になるでしょ?」


 ペンキ屋が遥子に聞いた。


 「そりゃ気にならないと言えば嘘になるけどさ、周りがどうこう言ってもしょうがないだろ?」


 遥子がそう答えると、ペンキ屋も納得した顔で言った。


 「そりゃそうだねぇ。それにしても今頃どこ走ってるのかな。康二、ちゃんとエスコート出来てんのかな」


 すると、ヤブが口を挟んだ。


 「いや、甘い物好きな康二のことだ。今頃、マーロウあたりに寄って、プリンでも食べてんじゃねぇの?」


 「そうかもね。ヤブ、羨ましいだろ?」


 そう言って遥子がヤブを揶揄うと、またヤブがいじけて言った。


 「そんな事ないもんねぇだ」



 「ヘックション!」


 康二は、また大きなくしゃみをした。


 「大丈夫ですか?」


 希が心配そうに康二に聞くと、康二は笑いながら答えた。


 アイツら、絶対僕たちの噂してる……


 いくら、察しの悪い康二でも流石に気がついたようだ。


 「さ、食べようか?」


 康二は気を取り直して、そう言うと、プリンの箱を開けた。


 「楽しみ〜」


 「はい、どうぞ」


 康二は、希にプリンとスプーンを渡した。普通のプラスティック容器ではなく、ガラスのビーカーに入っているので、思いの外重かった。


 「結構、この器、しっかりしてるんですね。それにガラスで、目盛りが振ってあって可愛い。でも、このマークのおじさん、誰なんですかね?」


 希がそう聞くと、康二は笑顔で答えた。


 「このマークのモデルは、レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説に出てくる私立探偵のフィリップ・マーロウ。店名にもなってるよね。それでこれね、ビーカープリンって言うんだ。このビーカー、耐熱ガラスなんだって。目盛りも飾りじゃないらしいから、家で計量カップに使えるね」


 「へぇ、よく知ってますね」


 希が感心して言うと、康二は照れながら答えた。


 「実は、前に来た時に気になったから、調べたんだ」


 「その時は、誰と来たんですか?」


 希が意地悪そうに聞いた。


 「えっ?いや、一人でだよ。その時は、カフェで食べたんだけど、カップルが多かったから、すごく気まずい思いをしたんだ。こんなおじさんがこんなオシャレな店で一人でプリン食べてるんだもん。浮いちゃうよね」


 康二は、そう言って自虐的に笑って続けた。


 「けどさ、美味しかったから、また来たいなって思ってたんだ。でも一緒に行く人いないから、なかなか来れなくてさ。今日は良かったよ。希ちゃんと来れて」


 康二がそう言うと、また、希の顔が赤くなった。


 この人、ホントさりげなくこう言う事言うんだもん。意識しちゃうじゃん……


 康二としては、全くそう言うつもりで言っているのではないのだが、天然とは怖い物である。だが、人付き合いの下手な康二は、誰に対しても言っているわけではない。希には、なぜか、気を使わず話やすいと感じているから、こう言う天然発言につながるのだ。他の女の子には気を使いすぎて、話すことができなくなってしまう。


 「うん?大丈夫?」


 康二は、赤くなって俯いている希に聞いた。


 「は、はい。大丈夫です」


 「そっか、じゃ食べようか」


 康二はそう言うと、蓋を開けて一口食べた。


 「うん、美味しい」


 希も蓋を開けて、一口食べてみた。


 「美味しい!なんか、ちょっと硬めのプリンでなんですね。それに、濃厚!さすが北海道フレッシュクリーム!!」


 「良かった。気に入ってくれたみたいだね。カフェで食べても良かったんだけどさ。せっかくバイクで来てるんだから外で食べたかったのと、このビーカーを見てもらいたかったんだ。カフェだとお皿に乗って出てくるからさ」


 希が嬉しそうに食べている顔を見て、康二が笑顔で言うと、希が言った。


 「そうだったんですね。私、せっかくだからカフェで食べれば良いのにって思ってました。だけど、このビーカー持って帰れるんですよね?」


 「うん、そうだよ」


 康二が笑顔で答えると、希は嬉しそうに言った。


 「じゃあ、二人で初めて行ったツーリングの記念になりますね!」


 「えっ!?」


 康二は、驚いて希の顔を見た。当の希は嬉しそうにプリンを食べていた。希も康二に負けず劣らずの天然発言をする。


次回の更新は20日となります

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