第三話ーー晴れーー51
二人は、休憩していたコンビニを出ると、国道16号を横須賀方面に向かった。
なんで、急に機嫌悪くなったんだろうな……
康二は、さっきの事を考えていた。これが、裕介だったらこんな事で悩みもしないだろうし、相手の女性の機嫌が悪くなるような事は言わない。康二は、こう言う事に関しては、裕介と違い全くと言って良いほど鈍感なのだ。
片や、希も自分がなぜ康二にあんな態度を取ってしまったのかを考えていた。ただ、康二があんな事を言った事が凄く寂しかったのだ。だが、今まで男性に対してそんな事をしたことが無かった希には、自分の行動が不思議で仕方が無かった。
側から見れば若い女の子らしく拗ねただけなのだが……
康二も希も、こう言う事に対しては不器用な二人であった。
しばらく走ると、横浜横須賀道路のインターチェンジが見えてきた。
インターチェンジを過ぎた所の信号で止まると、康二は希に話しかけた。
「ここ、横浜横須賀道路のインターチェンジだよ。ちょっと走ると八景島シーパラダイス」
「はい」
さっきの事を気にしているのか、希は少し元気がなかった。康二はそれを察したのか、続けて言った。
「さっきの話だけど……」
「はい」
「さっきは、ごめんね。僕で良かったら、一緒にヘルメットを選ばせてくれないかな?」
「えっ?」
希は驚いて康二を見た。
「あ、信号変わるよ」
信号が青に変わり、康二はヘルメットのシールドを下げてバイクをスタートさせると、希も慌てて、康二の後に続いてスタートさせた。
今の何?何?
希は、混乱していた。突然の康二の行動に戸惑っていたのだ。
なんで?なんで?なんで康二さんが謝るの?私が拗ねてただけなのに……
希はそう思った。
だけど……凄く嬉しい……
希は心が暖かくなるのを感じていた。
希はヘルメットを被っていて良かったと思った。きっと、照れてしまって康二の顔をまともに見る事もできなくなってしまっていたから……
二人は京急金沢八景駅を通り過ぎると、六浦の交差点を通り過ぎた。この六浦の交差点を右折して県道23号に入り、横浜横須賀道路の朝比奈インター近くから県道204号に入ると、鎌倉霊園横を通り、鎌倉に入ることが出来る。しかし、このルートは鎌倉霊園までがちょっとした峠になっているので、康二は希の事を考えて避ける事にした。
16号をそのまま走ると、追浜に出る。ここは、日産自動車の生産拠点である追浜工場がある地だ。2028年にこの工場が生産終了するとニュースにもなった。
こんなに近いのに、雰囲気が全く違うんだ……
希は横須賀に近づくに連れ、横浜とは雰囲気の違う街並みだと感じていた。
それもそのはずだ。横須賀は古くから、国防の要、旧帝国海軍横須賀鎮守府や海軍工廠が置かれ、軍港都市として栄えてきた歴史がある。
現在もアメリカ海軍第七艦隊をはじめ、自衛隊の基地や施設が多数点在している。そして海軍カレー発祥の地であり市内では数多くのお土産があり、名物として提供するお店も多くある。
そしてそもそも国道16号は軍用道路としての側面もあった。
国道16号を北上すると、横須賀だけではなく、厚木基地、キャンプ座間、横田空軍基地など、在日米軍の司令部が集まっている。それだけでは無い、重要な軍事施設や自衛隊施設も数多く点在しているのだ。もちろん、現在は在日米軍であっても、戦前、戦時中は日本の軍事施設であったわけで、古くから軍事物資や、人の流れをこの国道16号は担ってきたのだ。
道は、人や物流を運ぶために発展してきた。その歴史的背景に想いを馳せるのも楽しい。康二は、今日走ってきた道の成り立ちを希に話してあげたいと思っていた。そして、これこそが点と点を移動するだけではなく、点と点を結び線とする事が出来る。それもまたツーリング、旅の醍醐味なのだ。
康二は、兄、康一からそう言う事を教わってきた。このルートも康一と走った事があるルートの一つであった。まだ、免許を取ったばかりの康二に、康一はバイクの楽しさを丁寧に教えてくれたものだった。
それこそ、今、康二が希にしている事と同じように……
当時と比べると、街並みも乗っているバイクも違う。しかし、道は変わらず、人の思いを運び続けてきた。康一から引き継いだ「赤べこ」も、いつの間にか康一より長く乗っている。康一よりも年上になってしまった……
だが、康一の想いは康二に受け継がれている。
康二もまた康一の想いと共に道を走り続けている……
追浜を過ぎると、トンネルに入った。この三浦半島は地形上数多くのトンネル(隧道)があるのだが、ここから横須賀の街までの間にも数多くのトンネル(隧道)がある。それも古いものが多く、走る者にちょっとした異世界感を与えてくれる。
なんか、このトンネル少し古いから、夜に走ったら怖いかも……
希はそう思って、トンネル(隧道)を走っていた。
康二はトンネルを抜けると、右側にウインカーを出した。希がウインカーを出したのを確認すると、右側車線に移動した。そして希も康二の後に続いた。
康二は、信号待ちで止まると、希に声をかけた。
「ここを右折して、ちょっと走ると逗葉新道に入るからね。ちょっと、入り口で戸惑うかもしれないけど、心配しないで付いてきてね」
「はい……」
希はシールドを下ろしたまま返事をした。さっきの出来事をまだ引きずっていた。
まだ、怒ってるのかな……
康二は、希の態度が気になっていたが、希の方はと言うと、
なんか、意識しちゃうじゃん……
まともに康二の顔を見れないぐらい、意識していたのだった。
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