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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第三話

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第三話ーー晴れーー49 

 「煙かったら言ってね」


 康二がそう言うと、希は笑顔で答えた。


 「大丈夫ですよ。だけど、康二さんってタバコ吸うんですね。今までそんな素振りもなかったから、ちょっと意外です」


 「普段はあんまり吸わないんだけどね。吸える場所もあんまり無いから……だけど、ツーリングの時は別かな。ツーリングの時の缶コーヒーとタバコの組み合わせはクセになる。本当はこれも兄さんのマネなんだけどね。いつの間にか、これが楽しみの一つになってた」


 康二は、そう言って笑うと缶コーヒーを一口飲んだ。


 「へぇ、私、タバコは吸わないけど、缶コーヒーの美味しさはわかりました」


 希も笑顔で答えた。敢えて、ここで康二の兄の康一の話は聞かなかった。聞かない方が良いと思った。


 希は、タバコを燻らせて缶コーヒーを飲む康二を見て思った。


 なんか、タバコを吸う康二さんって、大人って感じ……


 改めて、康二を見ると、着慣れた黒い革のシングルジャケット、それに清潔感のあるデニムに、これも履きこまれてはいるが、綺麗に磨き上げられたエンジニアブーツ。


 派手さは無いが、その分、落ち着きがあり康二によく似合っている。


 今日の私はどうかな?野暮ったく見えないかな?


 希は、そう思っていた。

 今日は、遥子や灯と相談してそれなりにまとめて来たつもりだった。女の子らしく、ヘルメットで乱れた髪の毛を隠す為に、ニット帽子も被ったし、メイクもちゃんと早起きして派手にならないようにナチュラルメイクを決めた。


 しかし、康二は相変わらずの朴念仁だから何も言わない。


 こう言う時、灯ちゃんだったら、聞いちゃうんだろうな……


 希は、灯の積極性が羨ましく思った。普段の希だったら、ここで何も聞かずに終わらせていたのだろう。だが、今日は違った。


 うん!ここで黙ってても何も変わらない!


 そう思った希は、いろんな人と出会って少し変わり始めたのかもしれない。もちろん、今日のツーリングが希のテンションを上げている事も理由の一つではあるのかもしれない。


 希は、積極的になろうと、自分を変えようと思っていた。


 「康二さん!」


 「うん?」


 康二は、タバコを燻らせながら希を見た。


 「あ、あの……あのですね……」


 希は、改めて聞くとなると、言葉が出て来なかった。


 「あの……あの、今日の私……」


 すると、突然、


 「今日の希ちゃんのカッコさ……可愛いよね」


 康二が照れながら言うと、希は顔が赤くなるのを感じた。


 「いや、本当は今朝、言おうと思ったんだけどさ、出発前のどさくさで言いそびれちゃったからさ」


 康二も普段言い慣れていない事を言ったので、顔が真っ赤である。


 なぜ、朴念仁の康二がこんな気の利いた事を言えたのか、それは、今朝、康二の元に裕介からLINEが届いたからである。


 “今日はちゃんと、希ちゃんの格好を褒めろよ。今日の為に遥子と灯ちゃんとコーディネート考えてたらしいからな”


 酷いネタバラシである。だが、朴念仁の康二にはこれくらいが丁度良い。きっとこのネタバラシがなければ、一生自分の口からは言わないはずだからだ。


 「あ、ありがとうございます……あの……康二さんも、黒いジャケット似合ってます……」


 「あ、ありがとう……」


 二人はお互い、顔を真っ赤にして俯いてしまった。



 「あーあ、今頃どこ走ってんのかね、アイツら……」


 朝から康二にネタバラシをやってのけた裕介がぼやいていた。


 「そうだな……天気も良いしな……」


 オヤジさんも新聞を読みながらぼやいていた。


 「あーっもう!!朝から、オヤジ二人がぼやいてんじゃないよ」


 遥子が二人に怒鳴った。


 「そんな事言ってもよぉ。なぁ親父?」


 「ああ、天気も良いしなぁ」


 遥子に怒鳴られても、二人はダラケ切っていた。


 「あーっ全く!!お前ら二人でこんなとこで油売ってて良いのかよ。店開けてんだろが」


 「ああ、店はヤブとペンキ屋がいるから大丈夫」



 「なぁ、なんで俺ら店番やってるんだ?」


 ヤブがSDRをいじっているペンキ屋に聞いた。


 「うん?何でだろうねぇ」


 ペンキ屋はSDRに夢中で、全く意に介していなかった。


 「なぁ、今日は康二、希ちゃんとツーリングだろ?」


 ヤブがペンキ屋に言った。


 「そうだね」


 ペンキ屋は興味なさげに答えた。


 「羨ましいよなぁ。あんな若い子とさぁ」


 「何?ヤブも若い子と遊びたいの?」


 ペンキ屋は面倒臭そうに答えた。


 「別にそう言うわけじゃ無いけどさぁ」


 「じゃあ、何でよ?」


 ペンキ屋は、良い歳したオヤジのボヤキにうんざりしていた。


 「いや、オマエにしてもゲイなのに結婚してるだろ?何で、俺には彼女出来ないのかねぇ」


 まだ、ヤブのボヤキが続いている。


 「僕がゲイだとかは関係無いじゃん。それにね、ゲイはモテるんだよ?僕は女の子に興味無いけど。それよかさ、ぼやいてるんだったら、天気も良いし、ナンパでも言ったら?」


 ヤブはペンキ屋の話に聞く耳も持たずにぼやいた。


 「合コンしまくってるんだけどなぁ」


 ペンキ屋は、それを聞くとSDRの整備の手を止め、立ち上がってペンキ屋に言った。


 「そう言うとこだよ!!」



 こちらでもオヤジ二人がまだ、だらけ切っていた。


 「そんなんで良いのかよ……ホントにいい歳したオヤジがダラケてると営業妨害なんだよ」


 遥子がぶつくさ文句を言うと、裕介が答えた。


 「だってよぉ。康二の事気にならねぇ?俺なんてよ気になって気になって、朝から仕事が手につかねぇんだよ」


 「お前は、いつも仕事が手につかねぇじゃねえかよ。てかさ、おじさんも良い加減にしなよ?」


 遥子が呆れて言った。


 「ああ、天気が良いからなぁ」


 オヤジさんも気が抜けた返事を返した。


 「ダメだわ、コイツら……だけど、康二クン達、楽しく走ってんのかねぇ」


 遥子も康二達の事が気になっているようだった。

次回の更新は7月3日となります

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