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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第三話

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第三話ーー晴れーー45

 康二は、希に対しては自分のスタンスを崩してまで必要以上に親切丁寧に接している。いや、本人にしてみれば決して崩してはいないのだろう。今までも初心者ライダーには、見えないようにフォローしてきたのだ。それは変わらない。ただ、今回はそれが分かりやすく表に出ているだけなのだ。


 それに何よりも康二は希にバイクの楽しさを知ってもらいたいと思っていた。


 雨の日に一人だけ取り残されるような、あんな悲しい思いを二度とさせたくなかったのかも知れない……


 理由はどうあれ、今日の康二は、裕介や遥子からしたら、格好のイジリのネタになる事は目に見えている。


 あの二人に見られなくて良かった……


 康二は心底そう思っていた。しかし、康二は知らなかった。希が遥子の店でバイトを始めた事を……

 

 絶対に、遥子と裕介は今日の事を希に聞いてくるだろう。それどころか、天然とも言える希が自分から話すかもしれない。


 どの道、あの二人からイジられることは目に見えていた。


 そして、当の希はと言えば、この康二とのツーリングが楽しくて仕方が無いようだ。


 何よりも前を走る康二に安心感を感じていた。


 常に、後ろを走っている希を気遣い、決して無理をさせず、車線変更をするタイミングも早めにウインカーを出し、しっかりと希の動きを確認してから始めている。信号が変わりそうになると、希を焦らせないように早めに止まる。そして信号待ち毎に声をかけ、希の様子を確かめている。


 この細かい配慮と言える気遣いが希に安心感を与え、そして余裕を持たせてくれているのだ。


 今までの希は、ただ、先輩達について行くのが精一杯で、楽しむ余裕なぞ無かった。時には、置いていかれる事もあった。希が目的地に着いた時には、誰もいないなんて事もザラにあった。一緒に走っている、一緒に時間を共有しているなんてとても思えなかった。


 だが、今日は康二が一緒に走ってくれている。希と時間を共有し、同じ場所を走ってくれている。それが希の安心感に繋がり、バイクの楽しさを身体全体で味わうことが出来た。


 希はそれが嬉しくて仕方が無かった。康二とツーリングに出かけて良かったと心から思えた。

 

 康二が今日選んだルートは、待ち合わせ場所から考えたら、少し遠回りになる。


 第一京浜に入るにしても、環七の前には環八もある。横浜方面に向かうのなら第一京浜ではなく、国道1号もある。それこそ、逆方向に向かい、多摩川を越え神奈川県に入ってから国道16号を降りる手もある。有料道路を使えば、第三京浜もあるわけだ。


 ではなぜ、康二は環七を選んだのか、それは幹線道路では比較的走りやすいと考えたからだ。

 

 まず、環八は、東名東京インターの入口がある。東名に入る為の右折車が多く、また、その為に無理に車線変更をする車も少なくない。そう言った理由もあり、ここは、交通量も多く慢性的に渋滞をしている場所であるのだ。そして東京インター入口を超えると、国道246号との交差点である瀬田交差点もある。ここも、二子玉川や神奈川方面に向かう右折車も多く常に右折車線は車で埋まっている。そして、さらにそのまま環八を降れば、今度は第三京浜のインターが緩いコーナー開けに出てくる。


 休日という事を考えると、行楽の為の車が多くなると考えられたので、行楽地に向かう高速道路や有料道路に繋がる環八を避けたのだ。

 その反面、環七は主要な幹線道路との交差点は、オーバーパスになっている所が多い。オーバーパスを使って道なりに進めば、環七の終点近くにある第一京浜、国道15号との交差点にぶつかるからわかりやすい。その理由で環七を選んだ。


 他のルートも同じ様な理由で避けることにした。

 有料道路である第三京浜は、ETCを付けていない希には、料金所の問題がある。それに希の高速走行に不安があった。

 国道16号はとにかく交通量が多い。横浜町田インターや保土ヶ谷バイパスとの分岐も複雑だ。慣れていなければ戸惑うだろう。

 国道1号も横浜近辺で慣れていなければ間違いやすい。間違えてしまうと、有料道路である横浜新道に向かってしまう。


 元来、康二的には、どこのルートを使おうが問題無い。自分の気のままに走るのが康二の考え方なので、あまり事前にルートを考える事も無い。いつも、大体のルートの目星を付ければ、あとは標識に従って走っているのだ。途中で、自分の目を引いた看板などを見つけると、不意に寄り道をする事もザラにある。


 それがバイクのツーリングの楽しみの一つだと思っている。


 しかし今回は、康二にとっては初心者と言える希と一緒だ。希が走りやすく、道を間違わない様にと、そして何よりも楽しんでもらいたいと苦心の末に考えたルートだ。こういう所にも康二の過保護ぶりが出ていた。


 康二が苦心の末に考えたルートのおかげか、希は気負う事もなく、このルートを楽しんでいた。


 康二が上手く車の流れを読み、速度を調整してくれているので、置いて行かれてしまうと言う恐怖感も全く感じない。そのおかげで自分のペースで走る事が出来ている。そしてその分、気持ち的に余裕も生まれ、移り変わる景色を楽しみながら走ることが出来た。


 希は、このルートを走ったことは全く無い。それどころか、横浜、いわゆる京浜方面に言ったことが無い……はずだ。初めて見る景色ばかり……のはずだ。いや、もしかしたら、走った事があったのかもしれない。だが、先輩に着いていくのが精一杯で、今みたいに、周りを見る余裕など無かった。  

 だから、どこをどう走ったなんて、印象にも残っていなかった。どこに行ったのかさえもわかっていなかった。


 だが、余裕の生まれた今日は、初めて見る景色、心地良い風、スピード、バイクの鼓動、今まで経験した事の無いバイクの楽しさを感じていた。まだ、目的地には程遠い都心の幹線道路だと言うのにだ。


 自然と笑顔になっているのが自分でもわかった。


 なんか、康二さんがツーリングが好きなのわかるかも……


 希はそう思った。


 バイクで知らない街を走る。それが例え、都心でも、冒険心と好奇心をくすぐってくれる。距離が進む度に新しい発見を見つけることが出来る。


 きっと、こういうのが康二さんは好きなんだ……


 希は、多摩川で康二が話してくれた事を思い出しながら、そう思った。


次回の更新は19日となります。

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