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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第三話

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第三話ーー晴れーー44

 「わかりました」


 希は、スマホを取り出して、スマホフォルダーに取り付けた。


 「今日はここから、環七に入って、大森方面に降りてから国道15号に入って横浜方面に行こうと思うんだ。さっきも言ったけど、僕が前を走るから、焦らないで付いてきてね。無理な運転はしないつもりだけど、もし、もう少しゆっくりとか何かあったら、パッシングで教えてくれても良いし、信号待ちで教えてくれても良いから。それと、もし、信号が微妙な時は無理して渡らないでね。僕も注意するけど、タイミングによっては、信号で離れちゃう事もあるからさ。そしたら、先で止まって待ってるから、絶対に無理はしないでね。あと、休憩したくなったらいつでも言ってね。コンビニかどっかで休むから」


 「はい。わかりました。お願いします」


 本来、マスツーリングの場合、上級者が後ろからついていくのがセオリーと言われてはいるが、康二はあえて先行する事を選んだ。

 それは、まだ慣れていない希に、いくらナビアプリがあるとは言え、ルート選定と走行ペースを決めさせるのが酷だと思ったからだ。慣れていない場合、後ろからついて来られると逆にペースを乱し、自分のペースを掴めなくなってしまう事がままあるのだ。

 もちろん、その役目を一手に引き受け、その上、希に注意を払いながら走る康二にはそれなりの負担がかかるが、とにかく、康二は希に楽しんでもらいたいとの思いから、先行する事を選んだのだ。


 「じゃ、ちょっと早いけど行こうか?」


 康二がヘルメットを被りながら言った。


 「はい!」


 希も返事をしながらヘルメットを被って、YZFに跨った。


 康二がエンジンをかけると、希もエンジンをかけた。


 重い空冷大排気量車のバイクの音と、軽快な水冷250ccエンジンの音が響いた。


 ふと、希が康二のバイクのキーを見ると、一緒に買った「てるぼう」が希を見て笑っていた。


 てるぼう付けてくれてたんだ……


 希は、康二とのつながりが出来たみたいで嬉しかった。


 康二がヘルメットのシールドを上げて希に声をかけた。


 「じゃ、出ようか。くれぐれも無理はしないでね」


 希も、シールドを上げて答えた。


 「はい!わかりました!」


 康二が、アクセルを開けて、静かにスタートすると、希も康二に続いてスタートした。


 週末の朝と言う事で、道はさほど混んではいなかった為、比較的順調に進んでいた。康二は、小まめに後ろの希をバックミラーで確認しながら、速度を調整して走っていた。


 うん、大丈夫そうだな……


 康二は、希の走りを見ながらそう思った。

 とは言え、希もあれからほぼ毎日のようにバイクに乗っているのだ。康一がそこまで心配する程下手では無い。康一が過保護過ぎるのだ。


 信号で止まると、康一は希に話しかけた。


 「どう?これくらいのペースで大丈夫かな?」


 「はい!全然大丈夫です!」


 希は嬉しそうに答えた。康二が自分に注意を払っていてくれるのが嬉しかったのだ。

 それは、前を走っている康一を見ていればわかった。小まめにミラーを覗いて、自分にに注意を払ってくれているのがわかったからだ。

 いつもツーリングと言えば、置いていかれてばかりの希にしてみたら、康二のこの気遣いが嬉しかった。


 「うん、それは良かった。じゃ、これくらいのペースで行くね。もうちょっとしたら環七に入るから、そこの合流は気を付けてね」


 「はい!」


 信号が青に変わり、しばらくすると、環七との交差点に入った。この交差点を右折すると環七に合流する。

 ただし、ここの交差点は、通常の平面交差点ではなく、環七本線とアンダーパスとなっている。右折して、側道を少し走ると本線に合流する仕組みだ。

 アンダーパスという事もあって、本線を走っている車は比較的スピードが乗っている上、合流してまたすぐに今度は国道246号に入る為の側道がある為、車線を変える車も多い。初心者には、スムーズな合流と、車線変更が求められるので、比較的ハードルが高いとも言える。


 右折して、側道に入ると、環七との合流が見えた。康一は、環七本線を走っている車の流れを確認すると、綺麗に環七本線に入った。


 希ちゃん、大丈夫かな……


 康二は、そう思いながらバックミラーを見ると、希もしっかりと、環七本線の車の流れを確認して、スムースに合流した。


 うん、問題無いな……


 康二は、希の運転に少し安心してそう思った。


 しかし、何度も言うようだが、決して希は下手な訳では無い。自宅から大学へもバイクで通っているし、バイトを始めた遥子の店までも、バイクで出勤しているのだ。康二が過保護すぎるだけなのだが、これも康二なりの責任感の表れとも言えた。

 今まで間近で希の走りを見た訳では無かったのだから仕方がないのかもしれないが、希にこれ以上バイクで嫌な思いをしてもらいたくは無いと思っていたのだ。


 これだけを見ると、康二は他のライダーにも親切だと思われるが、人によっては康二は人を寄せ付ける事のない、人付き合いの出来ない男だと思われている。それは実は、康二が他のバイク乗りに、相手がどんな初心者であっても気を使う事はないからだった。いや、実際はひどく気を遣っているのだが、それを表立って見せる事は決して無いからだ。相手を尊重するあまり、相手に気を遣っていると思われるのが嫌だったのだ。


 康二は元来、バイクは一人で乗る物であるし、ちょっとしたトラブルは、自分で解決する強さを持つべきだと思っている。そう言う強さを持ってもらいたいと思っている。それが康二のスタンスだ。もちろん、アドバイスを求められれば、真摯に応える。だが、それが続くとなると話は変わる。自分で解決せず、人に頼ってしまうようになる。そしてそれは甘えにつながってしまう。


 康二はそう言う馴れ合いと言うものが嫌いなだけであって、決して他人に厳しい訳では無い。


 自分とスタンスが違う者と、相手を尊重するからこそ、無理して馴れ合うだけの付き合いをしたくないだけなのだ。


 この頑固とも言える姿勢が、康二という男が誤解される理由と言える。


 もちろん、康二をよく知る後藤モータースの面々は、決して康二に対してそんな悪感情を持ってはいない。逆に康二の人の良さを知っている。康二が他人に対して自分が傷つく事を厭わないので、優しすぎると思っているくらいだ。


 そもそも他の面々は、自分達と合わないものは、相手にもしないのだから……


次回の更新は15日となります。

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