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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第三話

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第三話ーー晴れーー41

 「へえ。バイクって本当に面白いですね。みんな個性があるって言うか……」


 希は感心したように言った。


 「だから面白いんじゃないかな。同じ車種でも個体によって違う事もあるし、もちろん乗り手によって変わっても来るし、エンジンの型式でも違うしね。そんな中で、自分がこの子だっていうバイクに出会えたら最高だよね」


 「そうですね……」


 希は少し考えていた。今、自分が乗っているバイクも先輩に言われるがまま購入したので、自分が好きで購入したわけではなかったからだ。だから、自分のバイクに対する愛情がここのメンバーの様にかけられていないのではないかと引け目にも感じていた。


 遥子は、希のそんな姿を見て言った。


 「ま、まだバイクに乗り始めたばっかりだしね。だんだんとわかってくるよ。わかんなかったら康二クンに聞けば良いんだし。ね!」


 「はい。だけど、皆さんが羨ましいです。私も早くそうなりたいです」


 希がそう言うと、遥子は笑って言った。


 「焦らない、焦らない。焦っても良いこと無いよ。大丈夫、バイクの楽しい事、私たちがいっぱい教えてあげるから」


 遥子にそう言われて希は元気良く答えた。


 「はい!お願いします!」


 「姉御ぉ」


 灯が遥子に声をかけた。


 「お客さん、居なくなったしい、私、SDR見に行きたぁい」


 遥子はチラリと時計を見た。


 「もうこんな時間か……じゃ、今日はもうお店閉めて隣に行こうか?片付けは後でやろ」


 「やった!!エンジンかけさせてもらお」


 灯はそう言うと、素早くエプロンを脱ぐと遥子と希を急かすように言った。


 「早く行こ!」


 「わかった、わかった」


 3人は隣の後藤モータースに向かった。


 「来ったよお!!」


 灯が元気良く後藤モータースに入った。


 「よお!なんだよ?どうした?」


 裕介が灯に言った。


 「ペンキ屋がSDR買うって言うからさ。見に来たんだよぉ」


 灯がそう言うと、ペンキ屋が慌てて言った。


 「いや、まだ買うって決めてないってば。はなちゃんにも聞かなきゃ」


 「はなには、私が電話しといたよ。別に良いってさ。その代わりもっと働けとも言ってたけど」


 遥子が笑いながら言った。


 「ナイスアシスト!はなちゃんのお許しも出たし、決めちゃえよ」


 裕介がそう言うと、ペンキ屋は腕を組んで悩み始めた。


 「うーん。確かに綺麗だしさ、これだけ程度が良いのは、なかなか見つからないとは思うけど……もうちょっと安くならない?」


 すると、裕介は電卓を取り出して、数字を打ち始めた。


 「これくらいかな」


 そう言いながら、ペンキ屋に見せると、ペンキ屋はまた悩み始めた。


 「うーん。欲しいけどなぁ。どうしようかなぁ」


 ペンキ屋が悩んでいる横で灯が裕介に言った。


 「ねぇねぇ、エンジンかけて良い?」


 「いいよ。初期整備終わってるから」


 裕介はそう言うと、キーを灯に投げた。


 「さんきゅ」


 灯はキーを受け取ると、SDRに差し、クラッチを握って、キックペダルを蹴ると、小気味良い2ストローク特有の音が店内に響いた。


 「おぉ〜、すぐにエンジンかかった。良いね」


 灯はそう言いながら、アクセルを煽った。


 タコメーターの針がアクセルの煽りに合わせて、ぴょんぴょん跳ねる。


 「これ、タコメーター後付けなんだ。レスポンスも良さそうだね」


 「ノーマルにはタコメーター付いてないからな」


 裕介が言った。灯はSDRに跨ると、ライディングポジションを確かめた。


 「小さくてかわいい〜。足もべったり着くし、軽いし、これは良いよ。楽しそう。ポジションも思ったより窮屈じゃないね〜」


 灯は、いたくこのSDRの事を気に入ったようだ。


 「だろ?2スト乗りには、堪らないだろ?」


 裕介が自慢げに言った。


 「うん、ツーリングとかはアレだけど、街乗りはこれくらいが良いかなぁ。これってDTのエンジンがベースなんだよね?」

 

 灯が裕介に聞いた。


 「そうだよ。細かい変更はしてるけどな」


 DTとは1984年発売のオフロード車、YAMAHA DT 200Rの事だ。SDRはそのDTの水冷2ストローク単気筒エンジンをベースにクランクケースリードバルブへと変更を加えたものだ。


 ペンキ屋が悩んでいる横で、灯と裕介が楽しそうに話している。


 希と言えば……二人の話している事が何の事だか、ちんぷんかんぷんだった。


 「遥子さん、二人が話している事が、全くわかりません」


 遥子は、笑って希に言った。


 「大丈夫。そのうちわかる様になるから」


 「そうそう、わからなかったら康二に聞けば良いから。アイツ教えるの上手いし」


 裕介が笑いながら言った。

 この二人の多少露骨な康二推しではあるが、当の希は、全く気がついていない様子で明るく答えた。


 「はい。今度教えて貰います」


 この子は、ほんと面白いわ。ニブイのか、天然なのか……


 遥子は希を見ながらそう思っていた。


 「なあ、ペンキ屋決めちゃえよお。そしたら、私に貸して」


 灯が身勝手な事を言い始めた。


 「エンジンはオヤジさんに手を入れて貰うとして、裕介さん、コイツのチャンバーって見つかるかな?」


 ペンキ屋が裕介に聞くと、裕介は少し考えて答えた。


 「程度にもよるけどな。無くは無いと思うけど……元々台数あんまり出てないバイクだし、古いしな。今はネットもあるし、探せば出て来るとは思うけど、必ず希望のメーカーの物が手に入るとは言えないな。俺らにしたら、まず売り物になるかが基準だから。焦って変なの掴んでも嫌だろ?」


 裕介が珍しくバイク屋らしい事を言っている事に希は少し驚いていた。

次回の更新は05日となります。

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