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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第三話

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第三話ーー晴れーー40

 「見せたいバイク?なんだろうなぁ」


 ペンキ屋が少し考えると、勘が良い遥子が言った。


 「あのSDRじゃない?」


 「SDR!!!」


 ペンキ屋が驚きの声を上げると遥子が続けた。


 「なんか、オークションでいい出物があって買ったんだよ。裕介の事だから、それを売りつけようとでも思ってるんじゃない?」


 遥子さん……それじゃ元も子もないよ……


 希はそう思った。せっかく柔らかい表現にしたのに、これだとペンキ屋が警戒してしまうと思ったからだ。しかし、当のペンキ屋はSDRと聞いただけで、そわそわしている。


 「マジかぁ。SDRかぁ。裕介さんいくらつけてるんだろ?欲しいよなぁ」


 ペンキ屋がブツブツ言っていると、灯がさっきのお返しとばかりに言った。


 「程度は、めちゃくちゃ良かったよぉ。その上、おじさんが手を入れるから、街中だとオマエのRZより早いかもなぁ」


 「そうなんだよ。あのコンパクトさは、街中では最高なんだよ。峠でも、下手くそな大排気量車なんか目じゃ無いだろうしなぁ」


 ペンキ屋は自分の世界に入ってしまったようだ。


 「あーあ、こうなったらもうダメだわ。はなに電話しておいた方が良いかなぁ」


 遥子は呆れて言った。


 「でもさ、SDRは私も欲しいもん。小さくて可愛いし、2ストだし」


 灯がそう言うと、希が聞いた。


 「あの……2ストって何?」


 「そっかぁ、最近は2ストって売ってないんだっけぇ?」


 灯がそう言うと、遥子がすかさずツッコミを入れた。


 「いや、今の時代、アンタの歳で2スト乗ってる方がおかしいって。メーカーが2スト売らなくなってから随分経つよ。アンタのNSRだって88年式でしょ?もう40年近いんだよ?」


 「そう考えるとぉ、あの子も年寄りなんだなあ。いつも元気だからさぁ」


 灯が感慨深げに言うと、希が聞いた。


 「えっ?2ストって売ってないんですか?」


 すると、遥子が笑いながら答えた。


 「そうね。排ガス規制や何やらでね。少ない排気量でパワーが出るから面白かったんだけどね。ここにいるみたいなマニアもまだ沢山いるよ」


 そう言いながら、ペンキ屋を指差した。


 「ま、そこら辺は、今度康二クンに聞いたら良いよ。丁寧に教えてくれるよ」


 「はい。そうします」


 希がそう答えると、遥子はニヤリと笑った。


 こう言っておけば、今度のツーリングの時、話題になるでしょ。康二クンは話し下手だし……我ながらナイスフォローだわ。


 突然、ペンキ屋が立ち上がって言った。


 「SDR見に行ってくる!」


 そう言うと、急いで店を出て行った。


 「あーあ。ありゃ買っちまうな。本当にはなに電話しておこ」


 遥子がそう言いながら、スマホで電話をかけ始めると、灯が言った。


 「私も見に行きたいなぁ。どうせエンジン掛けるんだろうから、音聴きたい」


 本当にみんなバイク好きなんだなぁ……


 希はそう思った。その反面、自分がバイクの知識が無いことにもどかしさも感じていた。


 私も、バイクの事を沢山勉強したら、もっと好きになれるかな……


 「うん、うん。本当に良いの?甘やかしすぎじゃない?はながそう言うなら止めないけどさ。うん。そうだ、今度紹介したい子がいるから店に来てよ。うん、じゃね」


 遥子が電話を切ると、呆れたように言った。


 「はな、お咎め無しだって。甘いよねぇ。結構良い値段するよ?それに、アイツ、ハーレーも持ってるのにさ。何台目だよ」


 「ほんと、そうだよねえ。アイツ、よっぽど儲けてるんだな」


 灯も呆れて言った。


 「ハーレーも乗ってるんですか?」


 希が驚いて聞くと、遥子が笑って答えた。


 「まあ、ハーレーは半分仕事かな。ハーレー乗ってる人って、結構、ヘルメットとかタンクとかペイントする人多いから。デモバイクみたいな物。だけど、アイツ、ハーレーも結構気に入ってるみたいだけどさ。あんなにバイクの性格違うのに」


 確かに、ハーレーとRZ-Rでは比べるとバイクの性格は真逆と言っても良い。片や車体が軽く、エンジンも高回転型、片やハーレーは、車体も重く、トルク重視で低回転でもドコドコと走ってくれる。こんなにも乗り味も性格も違うバイクなのだが、だからこそ、ペンキ屋は面白いと思っているのだろう。ある意味、いや、バイクの値段から考えると、かなり贅沢である。

 

 「ハーレーって大きいですもんねぇ」


 希が感心したように言った。


 「同じハーレーって言ってもアイツはForty-Eightって言って、ハーレーの中では小ぶりなスポーツスターってカテゴリーに入るバイクだけどさ。それにしてもVツインエンジンで1200ccあるしね。エンジンの鼓動なんて、お腹にくるのよ、ドコドコって。それにForty-Eightはハーレーの中でも、なかなかクセがあってね。長くて低いの。低く見せるためにミラーはハンドルの下だし、タンクは小さいし、フォワードコントロールだし、外国人に合わせてるから、クラッチ遠いし、ウインカースイッチは両方だし、慣れるまで大変」


 遥子が捲し立てるように言うと、希が笑いながら言った。


 「遥子さん、あんまりハーレー好きじゃ無いみたい」


 遥子は希にそう言われると、笑って答えた。


 「そう言う風に聞こえるでしょ?だけどね、それがハーレーの不思議な所だけど、乗ってると許せちゃうのよ。なんか不思議な魅力があるのよね。何回かペンキ屋のハーレー借りてツーリング行ったけど、これはこれで良いかなって思えちゃうの。コーナーも、あんな車体だから限界は低いんだけど、トルクを上手に使って回ってあげると、気持ち良く曲がってくれるのよね。あの独特の乗り味はハーレーって感じがするし、あれが好きって言うのもわかる」


 ハーレーダビッドゾン XL1200X Forty-Eight


 2010年に発表され、2011年に発売された。スポーツスターの中でも異彩を放っており、他のスポーツスターモデルとは一線を画す。

 1202ccの空冷エボルーションエンジンを搭載し、特徴的な小ぶりなピーナッツタンクと極太なファットタイヤが圧倒的な存在感を醸し出し、2021年に空冷スポーツスターが生産終了されると同時に姿を消した。

 1948年のモデルSに初採用された伝統ある小ぶりなピーナツタンクを採用したことが車名のForty-Eightの由来となっている。

 足つき性も良く、ハーレーの中では軽く扱いやすい事から、女性ライダーにも人気のある1台。

 ちなみに、リジットマウントされたエンジンのおかげで、ダイレクトに大排気量Vツインの鼓動を味わう事が出来るが、スマホフォルダーなどをしっかりと固定しないと、走行中に落下するかも……(筆者経験談)

次回の更新は6月01日となります。

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