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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第三話

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第三話ーー晴れーー39

 「全く、まだ高校生でしょうに……」


 遥子は呆れて言った。


 「だって、勉強嫌いだもん……」


 灯が不貞腐れて言うと、ペンキ屋が笑いながら言った。


 「灯ちゃんらしいね。で、どうするの?良い話じゃない?」


 「はい!こちらこそ、お願いします。みんなの近くで働けるなんて、すごく嬉しいです。いっぱいバイクの事教えてもらえるし、ケーキも食べたい物いっぱいあるし」


 希が明るく言うと、遥子は笑いながら言った。


 「ケーキは、賄いで出してあげる。店員さんにはうちの味を知ってもらわないとさ」


 「やった!」


 「うちとしては、基本、いつ来てくれても良いんだ。希ちゃんの学校に合わせてくれれば良いよ。灯ちゃんもそうだし。簡単に来れる日を教えてくれれば良いよ。でも、特別な理由が無い限りは、当日欠勤はダメね。それだけ。出来れば、土日はなるべく入って貰いたいけど、康二クンとツーリング行けなくなっちゃうから、それは応相談という事で」


 遥子は、そう言うとニヤリと笑った。すると、希は照れて言った。


 「そんな……また誘ってくれるとも限らないですし……そんなんじゃ無いです……」


 「そっか……ま、学生さんだからさ。色々あるだろうしね。土日出かけたいこともあるだろうし、そこら辺は臨機応変でね。私らも灯ちゃんの応援にいくこともあるしね」


 遥子は笑いながら言った。あえて康二の事は、これ以上突っ込まないことにしたのだ。今ここで急いでも良い事は無い。ゆっくりとお互いを意識すれば良いと思ったのだ。遥子なりの親心?だった。


 ただ心配なのは……


 遥子が、チラリとペンキ屋を見ると、ペンキ屋は素知らぬ顔でコーヒーを啜っている。


 コイツ、勘がいいから気がついているとは思うんだけど……


 もちろん、ペンキ屋は気がついていたのだが、詳しい事情がわからない以上、下手に余計な事を言わない方が良いと判断していた。自分が余計な事を言って、ダメになった場合、自分に危険が及ぶ(主に遥子から)ペンキ屋の防衛本能が働いたのだ。

 ただ、この後、詳しい事情を聞いてやろうとは思っている。聞いた上でイジれるものはイジってやろうと思っていたのだ。やはり、ペンキ屋もここのメンバーなのだ。


 「希ちゃんも私のレース見に来てよ!私のカッコいいところ見せてあげるぅ」


 灯がはしゃいで言った。灯としては年齢の近いバイク友達が出来たことが嬉しくて仕方が無かった。確かに、隣の「後藤モータース」には年頃の女の子ライダーは来ない。灯の学校にもバイクに乗っている友達はいない。


 これは遥子にも責任の一端はあるのだが……


 そもそもが、そこそこのお嬢様学校である灯の学校にはバイクに興味を持つ子がいないのだ。その上「伝説の遥子」の話を教師がするものだから、尚更だった。もちろん、バイクに乗ることは校則でも禁止されているが、この校則に関しては、当時の遥子も灯も無い物だと思っている節があるのがタチが悪い。

 とにかく、灯は今日一日、希とバイクファッションなどの実に女の子らしいバイクの話が出来て、本当に嬉しかった。同じ年頃で、命を削って速さを求めるレースじゃないバイクとの付き合い方を話せるのが嬉しかったのだ。


 それは希も同じだった。


 いつも先輩の言われた通りにやっていた。そうすれば先輩に好かれると思っていた。薄々はそれは違う、自分を殺している事だと気が付いてはいたのだが、目を逸らし続けていた。

 しかし、ここは違う。皆、自分を持っていて、人に迎合するような事はしない。ペンキ屋にしても、灯にしても、世間一般的にはマイノリティの部類だ。しかし、それに対して悲観する訳ではなく、いつも前を見ている。その強さが、希は羨ましかった。自分もそうなりたいと思った。


 だから、先輩が選んだヘルメットを捨てる事を選んだ。


 自分で(もしかしたら康二と)選んだヘルメットで、自分の選んだ仲間達とバイクに乗り続ける事を選んだ。


 「いつから来れる?私としては早い方が良いんだけどな。明日からでもお願いしたいくらい」


 遥子が言った。


 「明日、夕方からだったら大丈夫です。4時くらいから入れます」


 希が答えると、遥子は嬉しそうに言った。


 「ほんと?じゃあ、明日から来てくれると助かるわぁ。灯ちゃんは、明日来れないもんね」


 「うん。私は、週末と火曜日と木曜日だけ〜本当は毎日入れるんだけど、女子高生は色々と忙しいしぃ」


 灯がドヤ顔で言うと、遥子が呆れた顔で言った。


 「何言ってんの。どうせ友達と遊び歩ってるんでしょ?」


 「それも大切だよぉ」


 「確かに、それも大切だな」


 ペンキ屋が灯の肩を持つと、灯が感心した様に言った。


 「よく分かってんじゃん。少しはペンキ屋の事見直した」


 「そりゃどうも」


 すると、遥子がペンキ屋に言った。


 「ペンキ屋。灯ちゃんを甘やかすなよ」


 「いや、大切なお客様だしね。うちの事、たくさん宣伝して貰わないと」


 ペンキ屋がそう言うと、灯が少し不満そうに言った。


 「何?私をそういう風に見てるわけぇ?」


 「うん」


 ペンキ屋がさらりと言うと灯がムッとした顔で言った。


 「やっぱ、お前ムカつく」


 灯としてはそんな風に見てもらいたくは無いのだろう。もちろん、そんな事はペンキ屋の冗談だという事は誰でもわかる。灯も頭では分かっている。しかし、それを口に出されると、腹が立つのである。

 

 なんでも間に受けてしまうところが、まだ子供だとペンキ屋に言われてしまう理由である。


 とは言え、そのまだ大人になりきっていない女の子を揶揄うのも趣味が良いとは言えないが……ペンキ屋は基本、皮肉屋な性格で意地悪である。


 「そう言えば、裕介さんがペンキ屋さんにこっち寄ってって言ってましたよ。なんか、見せたいバイクがあるって」


 希は、若干表現を変えてペンキ屋に言った。裕介はペンキ屋に「売りつける」と言っていたはずである。


次回の更新は29日となります。

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