第三話ーー晴れーー36
「あれ?なんで?」
ペンキ屋はなぜ涙が流れたのか不思議だった。
「あ、遥子が泣かした」
裕介が子供のような事を言った。
「なんで、私なんだよ?もしかして……本当にコウちゃんの事好きだったの?」
遥子は心配そうにペンキ屋に聞いた。遥子なりにペンキ屋の心情を思っての事だろう。
「違う、違う。なんか安心しちゃってさ。こんな風に言ってくれるとは思わなかったから、気が抜けちゃった」
康一は、ペンキ屋の話を聞いて思った。
そうか、自分が普通とは違うって事にずっと悩んでたんだな……人に理解されないから、自暴自棄になってたんだ……
「と、言う事で、ペンキ屋の告白は、恥ずかしい話じゃないと言う事で、罰ゲームとして遥子の黒歴史を暴露して貰いましょう!」
裕介が、また訳のわからない事を言い出すと、遥子は怒って言った。
「なんで私の黒歴史なんだよ!?」
「だってよ、康一も聞きたいって顔してるぜ?」
裕介は、無責任に康一に話を振った。
「俺に振るなよ」
「だってよ、興味あるだろ?インパルスの遥子の話」
裕介は、遥子をイジるのが楽しくて仕方がないようだ。
「良いよ。俺が聞いた話だとね……」
ペンキ屋が話し始めると、遥子が必死に止めた。
「やめろよ、ペンキ屋!!!」
「えー、めちゃ面白いのに……相当、ヤンチャだったって」
ペンキ屋がニヤつきながら言うと遥子が聞いた。
「ところで、オマエ、誰からその話聞いた?」
「うん。姉御の同級生に、はなちゃんっていたでしょ?はなちゃん、子供の頃から仲良しなんだ」
「はなかぁ。あのやろー。余計な事を言いやがって!今度会ったら覚えてろよ」
遥子が怖い事を呟くと、ペンキ屋が言った。
「こう言うところが姉御なんだよね」
「うるさい!」
遥子はそう言うと、ペンキ屋を追いかけ回した。ペンキ屋は嬉しそうに逃げ回った。
佐野くん、顔が変わったな……話せてスッキリしたんだろうな……
康一はそう思いながら、二人を見ていた。
「と言う事があったんだよ」
ペンキ屋が嬉しそうに言った。心なしか、さっきまでと表情が違うと希は思った。
「でね、その後、3人で峠を走ったんだけど、楽しかったな。マスツーリングで一番楽しかった。いや、あれはマスツーリングなんて甘いもんじゃ無いな。みんな早かったもん」
希は楽しそうに思い出話を語るペンキ屋を見ていた。目がキラキラと輝いている。
さっきのあの振る舞い方は、本当の自分を隠すためにやってたんだろうな……
希はそう思った。
ペンキ屋のあの大人の振る舞いは、自己防衛の為だったのだと理解したのだ。希はそう思えたら、ペンキ屋に対する苦手意識が薄れて行った。
そのうち、私も灯ちゃんみたいに、正直に自分の気持ちを言える様になれたら良いな……
きっと、これからもペンキ屋の立ち居振る舞いは変わらないだろう。しかし、ペンキ屋の本心がわかった今は、それさえも気にならなくなった。これはペンキ屋の言う通り、クセなのだと受け入れる事が出来た。
だが、受け入れても、それが気にならないと言えばウソになる。きっと、灯も同じなのだろう。子供扱いに対する反発心である。それを灯は素直に言う事が出来る。もちろん、知り合ったばかりの希には無理な話だ。
きっと、そうなれるよね……仲間になれたら……ね
希はそう思うと、ペンキ屋に聞いた。
「そんなに早かったんですか?」
「早いなんてもんじゃないよ。僕もそれなりに自信はあったんだよ。いつもギリギリの走りしてたんだからさ。けど、次元が違った。いくら僕のバイクがセッティング変えたばかりって言っても、それだけじゃ無かったね。根本的に違った。それで余裕があるからムカつくよね」
「そんなに?」
希は驚きながら聞いた。
「うん。言うだけの事はあるなって素直に思ったよ。実力の差を見せつけられちゃったら、言う事聞くしかないよねぇ」
ペンキ屋は笑いながら言った。
ペンキ屋さんにとって、この出会いは凄く良い物だったんだな……
希はそう思った。
「あんな、大きいバイクをさ、ひらりひらりって操っちゃうんだもん。ほんとに凄いよ。僕もさ、せめて姉御には勝ちたいと思ったんだ。当時、まだ姉御は400ccのバイクだったしね。一応、僕のバイク、750キラーって言われてたし」
「それで、どうだったんですか?」
希は興味津々に聞いた。
「それがさ、姉御にも全く叶わなかった。姉御も綺麗に曲がるんだ。さすが『インパルスの遥子』だと思ったよ」
「ちょちょちょっと、待って下さい?『インパルスの遥子』って?」
希が驚いてペンキ屋に聞くと
「あのね、姉御は……」
「ちょっと待て!!!!!」
慌てて遥子がペンキ屋の話を遮った。
「おい!オマエ今何を言おうとした?」
遥子がすごい形相でペンキ屋に詰め寄ると、ペンキ屋は悪びれずに笑いながら言った。
「いや、姉御の当時の呼び名を教えてあげようと思ってさ」
「え?なになに?私にも教えて?」
灯が話に入ってきた。
「ちょちょちょちょちょい、ペンキ屋分かってんだろうな?」
遥子は、動揺しながらもペンキ屋に凄んだ。
「やっぱさ、隠し事は良くないと思うんだよね。僕もカミングアウトしたんだしさ」
ペンキ屋は、訳のわからない理屈を言った。
「それと、これとは話が違うだろ!」
「そんな事ないよ。灯ちゃんも希ちゃんも聞きたいよねぇ?」
「うん!!」
「はい!!」
二人が仲良く返事をすると、ペンキ屋は勝ち誇った顔で陽子に言った。
「ほら?二人も聞きたいってさ」
「また黒歴史が……」
遥子は顔を覆って嘆いた。すると、ペンキ屋は嬉しそうに話し始めた。
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