第三話ーー晴れーー32
「じゃあ、お願いします」
ペンキ屋はオヤジさんに頭を下げて言った。
「おう!任せとけ」
オヤジさんはそう言うと、またRZの整備に取り掛かった。
「さてと、どうする?足無くなっちゃっただろ?バイクで送ってやろうか?」
裕介がペンキ屋に聞いた。
「うん、だけど電車で帰るよ。そんなに遠くないし。ヘルメットは預かってくれる?」
「ああ、良いよ。ヘルメットとグローブ置いていけよ」
「ありがとう」
ペンキ屋はそう言って、ヘルメットの中にグローブを入れて、裕介に渡した。
「あれ?そういえば康一さんは?」
ペンキ屋は辺りを見回しながら裕介に聞くと、裕介は笑いながらペンキ屋に答えた。
「うん?アイツは遥子のとこ」
ペンキ屋が残念そうに呟いた。
「そっか、じゃあ邪魔しちゃ悪いね」
すると、裕介はニヤリと笑って言った。
「なんだ、ちゃんと人の事わかんじゃねえか」
「なんだよ、それ」
ペンキ屋が少し不満げに言った。
「いや、オマエさ、少し壁があるって思ってたんだよ。遥子もそう感じてたみたいだし。けど、ほんとはちゃんと人の事考えてるんだよな。親父の為に缶コーヒーも買いに行ってくれたしさ」
ペンキ屋は黙っていた。
「オマエ誤解されやすいんだな。けどよ、ハッキリ言って、それだと損だぞ?人に好かれる様に努力しろとは言わないけど、誤解されるより、好かれた方が得じゃん?」
裕介らしい言い方でペンキ屋に言った。
「そうだね……」
ペンキ屋は俯きながら裕介に返事をしたが、どこか表情が暗かった。その表情を見て、
やっぱ、コイツ、まだなんかあるな……
と裕介は思うと、ペンキ屋に言った。
「ま、人それぞれだけどな。別に直せって言ってるわけじゃ無いし。オマエが良ければそれで良いんだ。ただな……」
「ただ?」
「もう、あんま無茶な運転はするなよ。やっぱ心配だからさ。仲間が事故ると嫌じゃん」
「仲間……」
ペンキ屋がそう呟くと、裕介は照れ笑いをしながら言った。
「改めて、仲間なんて言うと照れくさいけどさ。幸か不幸か知り合っちゃったわけだしな。関わっちゃった以上は、俺ら、心配しちゃうわけさ」
「うん……ありがとう……」
ペンキ屋が、小さい声で呟いて頭を下げた。
「ほんと、実はオマエ、ちゃんとしてんだよな。はじめは生意気だと思ったけどよ」
裕介は笑って言った。
「ひでえなぁ。俺、一応マトモなつもりなんだけど」
ペンキ屋は、真剣な顔で希に言った。
「実は僕……ゲイなんだよね……」
ペンキ屋の突然の告白に希は、何も臆する事なく答えた。
「はい」
ペンキ屋は希が当たり前の様に受け入れた事に少し驚いて言った。
「あれ?驚かないね?」
「はい」
希は、不思議そうに答えた。なぜ、そんな事を聞くのかと内心思っていた。
「普通は、こんなカミングアウトされたら、それなりの反応が返ってくると思ったんだけどな」
ペンキ屋は希の反応が、自分の思っていた物と違ったので、少々拍子抜けだった。
「だって、ペンキ屋さんはペンキ屋さんじゃないですか?」
「ははっ」
ペンキ屋が思わず吹き出した。
「なんか、おかしいですか?」
希は、吹き出したペンキ屋に言った。
希なりにペンキ屋に気を遣っていたのは確かだ。セクシャルな問題は非常に難しい。希にはそういった友達もいなかった。だからこそ、ペンキ屋の心情を図ることなぞ出来なかった。それならば、変に誤魔化して同情するよりも、自分の正直な思いを伝えた方が良いと考えたのだ。
そして、希の出した答えは、今まで短い時間だがペンキ屋と話していて感じた「普通の人と何ら変わりが無い、なら、自分も普通に接する事」という事だった。
その答えが単純に「はい」と言う表現だったのだ。それは即ち、ペンキ屋がゲイだろうが、関係ないと言う事だった。
ペンキ屋を人間として見た答えだった。
そうは言っても、灯と同じように、ペンキ屋の大人の対応には少し、苦手意識があるのは確かかもしれない。
これは、ペンキ屋が希と灯を子供扱いしているからである。
しかし別に子供扱いしているからと言って、ペンキ屋が二人を馬鹿にしているわけでは無いのだが……微妙なお年頃の二人はそう言う事に敏感なのだ。
「いや、ごめんね。希ちゃんと同じ事を言った人がいてね。それも3人もだよ?それを思い出したらおかしくなっちゃって……」
「その3人って……もしかして?」
希は遥子の顔を見て言った。ペンキ屋は希の目線に気が付いて笑いながら答えた。
「勘がいいね。そう、想像通り、姉御と裕介さんと康一さん」
「やっぱり!」
希は笑顔で答えた。正に希の想像通りだったのだ。康一のことはよく知らないが、皆の話を聞き弟の康二を見ていれば、康一の人柄が想像できた。
そして、それは希が憧れた3人の人物像に一致していた事が嬉しかった。
「何?何?ペンキ屋!オマエ変な話してないだろうな?」
一区切りついた遥子が二人の会話に入って来た。ペンキ屋は、昔の遥子を知っている。これ以上黒歴史を暴かれたくなかった。
「いや、僕がカミングアウトしただけ」
ペンキ屋がさらりと言った。
「オマエ、早くね?」
遥子が多少驚きながら言った。別にこんな事は正直に話さなくても良いと思っていたからだ。セクシャルの問題を隠していても普通に付き合う事はできると思っていた。
いきなり、話しちゃうって事はペンキ屋なりに希ちゃんに何かを感じたって事か……ほんと、この子は不思議な子だね。本人は気が付いていないみたいだけど……
「で?希ちゃんに嫌われたのか?」
遥子は、意地悪そうに言った。こう言う事を言えるのも、ペンキ屋のセクシャルの事を何とも思っていないから言える事だ。区別も差別もしない、普通に人間として接している証拠だ。
「いやいやいや、なんか普通に受け入れられちゃった。それも姉御達と同じこと言って」
ペンキ屋は嬉しそうだった。
次回の更新は5月4日となります。




