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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第三話

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第三話ーー晴れーー31

 「オマエ、少しこのRZ置いてけ。エンジン開けて全部見てやる」


 オヤジさんが言った。


 「えっ?そんな事したら、費用が……」


 まだ学生だったペンキ屋は、オーバーホールを頼む程のお金は勿論無い。


 「金?そんな物いらねえよ。俺の趣味だ」


 オヤジさんは笑いながら言った。


 「そんな、悪いよ……」


 ペンキ屋は申し訳なさそうに言った。すると裕介が笑いながら無責任に言った。


 「別に良いんじゃね?親父がそう言うんだったら、甘えちゃえよ」


 「オマエ、バイク屋の息子だろ?良いのかよ?」


 康一は心配そうに言った。だが、この二人はオヤジさんが言い出したら聞かない事を知っている。

 

 二人の会話を聞いて親父さんが言った。


 「良いんだよ。俺が良いって言ったんなら、良いんだ。その代わり、俺なりの公道セッティングにするからな。こんな危ねぇセッティングじゃ外走らせられねぇ」


 本当は、これをしたかったんだろうな……


 康一は思った。そこは、オヤジさんなりの気遣いだろう。このまま走っていても、ペンキ屋にもバイクにも良い事はないからだ。


 もう一つ、康一を驚かせる事があった。


 「わかりました。よろしくお願いします」


 ペンキ屋が素直にオヤジさんの言う事に従ったのだ。


 「なんだ?随分素直だな。さっきまで、俺の走り方の何がわかる!なんて息巻いてたのに」


 裕介がまた、ペンキ屋を揶揄う様に言った。


 「まあ、それはそれで……」


 ペンキ屋は照れながら言った。


 ペンキ屋自身、二人とやり合って、自分の中で少し何かが変わったのだと感じていた。


 今まで、仲間なんていらないと思っていた。自分の事なんて、誰も理解してくれないと思っていた。その分、バイクにのめり込み、自由にバイクを操る事で心のバランスを取っていたのかもしれない。バイクで早く走る事が自分の存在価値だと思っていたのだ。

 そんな考えはひどく幼稚なのかも知れないが、しかし……ペンキ屋にはそうするしかなかった……


 そうしなければ自分を保てなかった……


 だが、今、自分を怒ってくれる人に出会った。自分にケンカをふっかけてくれる人に出会った。自分の事を真剣に心配してくれる人に出会った。

 表面的な付き合いをしている人はいる。早く走れば、無責任に賞賛する人もいる。しかし、彼らは、ペンキ屋が転けようが、死のうが関係ない。無責任な観客でしかない。それをペンキ屋はわかっているからこそ、そういった者達とは距離を取っていた。

 しかし、オヤジさんをはじめ、後藤モータースのメンバーは、そう言った者達と違った。


 ペンキ屋は、少しこの人達を信じてみようと思ったのだ。


 最後の秘密だけを隠して……


 この秘密を打ち明けた途端、今の関係が壊れるのが怖かったのだ……


 「全部オヤジさんに任せるのは良いとしてもさ、自分の好みは伝えた方が良いんじゃない?」


 康一が言った。


 「そうだな。オマエの好みもあるだろうから。聞くだけ聞いてやるぞ」


 聞くだけ聞いてやるって、オヤジさん……本気で彼の走りを変えるつもり?


 康一は思った。ピーキーな性格のRZを、いきなりセッティングだけで性格を変えるのは土台無理な話だ。最低限、吸排気系、チャンバー、キャブを変えなければ劇的な変化は起こらない。ただし、セッティング一つで、今よりも幾分、乗り味は変わる。その乗り味の違いで、ペンキ屋の生命を削る走りが変わるはずだ。

 オヤジさんは、後々、このRZを公道仕様に変えていくつもりだろう。それが、ペンキ屋を救う事になるはずだ。


 「ところでよ、オマエ、何やってんだ?働いてんのか?」


 オヤジさんは、RZをいじりながらペンキ屋に聞いた。


 「いや、まだ学生です。イラストレーターになりたくて、美大で絵の勉強をしてます」


 「おお!クリエイターじゃん」


 裕介が大袈裟に言った。


 「クリエイターだなんて、そんな……まだ卵にもなってないよ。毎日、絵の具をいじってるだけだよ」


 ペンキ屋は、謙遜して言った。


 「それでもな、うちにはそんな毛色の客なんていねえもんな。康一」


 「そうだね、芸術家肌なんだな。RZも自分でペイントしたんでしょ?」


 康一は感心して言うと、オヤジさんが言った。


 「大したもんだな。ペンキ扱うのがうまいんだな」


 「いや、ペンキって……」


 康一が呆れて言うと、


 「ペンキには違いないだろ?な、ペンキ屋!」


 「ちょっと、オヤジ。ペンキ屋は酷いだろ?」


 人をいじるのが大好きな裕介でさえ、そう言った。


 「ペンキ屋か……」


 ペンキ屋は呟いた。


 「遠慮しないで怒って良いからね」


 「そうだぞ、流石に……」


 裕介が言いかけるとペンキ屋がまんざらでもない様子で言った。


 「良いじゃん。ペンキ屋!」


 「へ?」


 「へ?」


 裕介と康一の二人は、驚いて顔を見合わせた。オヤジさんは得意げな顔をして言った。


 「だろ?」


 「うん!ペンキ屋の絵描きってステキじゃない!めちゃ気に入った!」


 思いの外、ペンキ屋は喜んでいる。


 「まあ、本人が喜んでるならな……」


 「別に良いけどさ……クリエイターってわかんねぇな」


 裕介と康一は、喜んでいるペンキ屋を見て言った。

 

 この事がきっかけで、佐野は後藤モータース界隈でペンキ屋と呼ばれる様になったのである。


次回の更新は5月1日となります。

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