表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第三話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
64/101

第三話ーー晴れーー29

 「そんなオヤジさんだからさ、俺たちは、オヤジさんの悲しい顔を見たくないんだ。勿論、君も含めた仲間の悲しい顔もね」


 「まあな。うるせえオヤジだけど、そう言うとこだけは俺も尊敬してるわ。今じゃ俺よか、康一の方が息子みたいになってるけどよ」


 裕介が笑いながら言うと遥子がすかさずツッコミを入れる。


 「オマエ、コウちゃんと違って出来の悪い息子だもんな」


 「そうなんだよ。出来が悪い不祥の息子だからなぁ。オレって……おい!!」


 「自分で言ってるんじゃねぇか!下手なノリツッコミするんじゃねぇよ」


 遥子が笑って言った。ペンキ屋も少し笑みが溢れた。


 「どうせ、後で見にいくんだからさ、色々と話してみると良いよ。ちゃんと教えてくれるよ。基本、バイクを大切にしてる奴は好きだから」


 「……うん……」


 「実はね、さっきのハイサイドの話、あれって裕介の経験談だから」


 康一がペンキ屋に笑いながら小さい声で言った。


 「うん?余計な事言うなよ。康一」


 「裕介もさ、サーキットではガーって突っ込んじゃうんだよ。公道ではあんなにスムースに走ってるのにさ」


 康一は、ニヤニヤしながら言った。


 「康一くん、やめよ?ね」


 裕介は自分の事を言われて動揺し始めた。


 「レイトブレーキングなんてかっこいいもんじゃないよ。突っ込みすぎて無理矢理回るから、ほんと力でねじ伏せてるって感じ」


 「やめて、ね、お願い……」


 裕介が今度は康一に懇願し始めた。


 「それで、ハイサイド食らって、マシンは大破。で、本人は肋骨骨折で全治2ヶ月」


 遥子も康一に乗っかって言い始めた。


 「ほんとだよ、散々コウちゃんに言われてんのにさ、サーキット行くと、頭に血が上っちゃってんのよコイツ」


 「そうだよ。だからレースやめたんだよ。どんなに頑張ってもコースに出ちゃうと、頭に血が上っちゃうからさ。康一みたいにクレバーに走れねぇんだもん。だから俺はオヤジの後を継いでメカニックになろうって決めたんだ」


 裕介は開き直って言った。康一は笑いながらペンキ屋に言った。


 「ね。こんな話もサーキットでの話だから笑い話にもなるんだよ。おんなじ事が公道で起こってごらん?シャレにならないよ?」


 ペンキ屋は黙って頷いた。


 「オマエさ、俺の失敗、話す事ねぇじゃんよ」


 裕介が膨れて康一に言った。


「別に良いじゃん。こう言う事を伝えて行くのも先輩の役目だよ」


 「そうそう、大事な事だよ。特にオマエの失敗談はな。アホな事ばっかやってるから」


 遥子が裕介を揶揄いながら言った。


 「オマエら酷くない?」


 すると突然ペンキ屋が言った。


 「ねえ!!オヤジさんの好きな缶コーヒーって何だっけ?」


 「あん?UCCだよ」


 裕介が答えた。


 「俺、買ってくる」


 ペンキ屋はそう言うと、急いで店を出て行った。


 裕介達3人は、急いで店を出ていくペンキ屋を、多少の驚きを持って見送った。


 「ねえ、あれ、どうなの?」


 遥子は、まだペンキ屋を信用していないらしい。言い方がキツめである。


 「まあ、あれだ。一応反省したんじゃないの?」


 裕介は、まるで他人事の様に言った。


 祐介にとっては、反省しようが、しまいが関係無いのだ。力づくであろうと、何であろうと初めの一歩は先輩として教えた。しかし、その後は本人次第、そんな物は本人が決める事で、これ以上、人がとやかく言っても仕方がない。いくら言っても、アドバイスしてもダメな奴はいる。

 

 もし、ここでペンキ屋が変わらなければ、それまでの事でしかないのだ。


 後藤モータースの面々がいくらお人好しとは言っても、そこまで面倒を見るつもりは毛頭無い。たとえ、それが無責任だと言われても、子供に教えるのとはわけが違う。相手は大人だ。相手を尊重するからこそ、自発的に変わって欲しいという思いがあるのだ。


 勿論、本人が変わりたいと望むのなら、手段はどうあれ、いくらでも手助けをするつもりではあるのだが……


 「でも、可愛いとこあるんじゃない?オヤジさんの好きな缶コーヒーを焦って買いに行くなんてさ」


 康一がそう言うと、裕介が言った。


 「まあ、一応差し入れ持ってきたしな。悪い奴じゃ無いとは思うけどな」


 「呆れた奴だな。オマエは、差し入れで人を判断するのかよ」


 遥子は、呆れ顔で言った。


 「何言ってんの?こう言うのって結構大事だぜ?基本、こういう事を出来る奴は、思いやりがあるから出来るんだ。思いやりがない奴は、人の為にそんな事するわけねえだろ?」


 裕介がドヤ顔で言うと遥子は、ますます呆れて言った。


 「なんか、説得力がある様な、無い様な……」


 「まあ、裕介の言ってる事はアレだけど……佐野くんは良い奴だと思うよ」


 康一が言った。


 「なんで?私は、アイツニガテだわ……なんかさ、ちょっと壁を感じるって言うか……人を寄せ付けない所があるって言うか……」


 遥子が言った。


 確かに、佐野くんには、どこかそう言う所があるかもな……人を遠ざけるみたいな……


 康一はそう思った。


 だけど……


 どうしても康一には、ペンキ屋がそこまで嫌な奴だとは思えなかったのだ。裕介の言う事は極端だとしても、ちゃんと人と向き合う様に見えた。


 「確かに、遥子の言う通り、どこか人を寄せ付けない所もあるよな。なんか本心を隠している様な……」


 裕介が思い出しながら言った。裕介なりに、散々ペンキ屋を煽って、ペンキ屋の本心を探ろうとしていたのかもしれない。人は、怒りの中から本音が見える。その事を裕介は本能的に知っているのだろう。煽った結果、ペンキ屋は感情を露わにして、人間らしい一面を見せたわけだ。


 そのせいで、いつも火消しをするのは俺の役目なんだもんな……ほんと、良い迷惑だよ……


 康一はそう思っていた。どちらかと言うと、軽く飄々とした雰囲気の裕介ではあるが、その実、感情的な所もある。本人は計算づく的な事を言って入るが、そんな計算なんかする器用さは無い。遥子はといえば、言わずもがなである。この二人に挟まれている康一は、人知れず苦労しているのである。


次回の更新は24日となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ