第三話ーー晴れーー27
全く、こういう時だけ……
康一はそう思いながら、半ば呆れた顔で裕介を見た。
めんどくさい説明は、俺にさせて、自分はさらりと答えを言うなんて、調子良すぎだろ……
康一はそう思った。
しかし、そうは言っても、実際この二人のコンビネーションは、良くできた物なのも事実だ。康一がどう思おうが、二人が、自然と自分達の役割を理解している。
それに、この二人のコンビネーションのおかげで、いろいろな意味で救われた者がいるのも事実だ。
あのクセの強いオヤジさんに説教をされても、ペンキ屋の他にも心に響かない者も勿論いる。全く聞かずに拒絶する者もいる。そう言った者達に、この二人はフォローを入れているのだ。
少しでも悲しい思いをさせないようにと……
オヤジさんの真意が伝わる様にと……
ただし、いくら言ってもダメな者はどこの世界にもいる。そう言った者達には、この二人もフォローなぞ入れずに、丁寧にお引き取り願う。
ただ、悲しい思いをしないようにと願いを込めて……
「確かに、サーキットに比べたら危ないのはわかるよ。危険な事をしてるのも承知している。だけど、それがアンタらに何の関係があるんだ?」
若いねぇ……こりゃ、ダメかもな……
またヒートアップし始めたペンキ屋を見て裕介はそう思った。その前に遥子がものすごい形相でペンキ屋を睨んでいた。
「オマエさ……」
遥子が爆発する前に康一が遥子を止めた。
遥子も裕介に負けず劣らずキレたらヤバい。何せ灯曰く「伝説の女」なのだ。
その「伝説の女」もペンキ屋の態度に腹を据えかねていた。
「まあま、遥子も落ち着いて」
「そうだぞ、遥子怒らせると怖いぞ、なんせ、ここら界隈の姉御だからな」
裕介がまた余計な一言を言うと、ペンキ屋に向いていた遥子の怒りが今度は裕介に向かった。
「オマエ、また余計な事をぐちゃぐちゃと……」
こう言う時は、裕介の空気を読まない軽さが役に立つ。大事になる前にワンクッション入るからだ。
康一は、笑いながら二人を止めて言った。
「この二人は、いつもこうだからさ、気にしないでね。確かにさ、佐野くんの言う通りに、佐野くんと知り合う前だったら、どこで勝手に事故ろうが関係なかったかもな……だけどさ……」
康一が、少し間を待たせると、裕介がすかさず言った。
「知り合っちまったんだもん。しょうがねぇじゃん」
「何だよ、人の話横から持ってくなよ」
康一は裕介に文句を言った。
「だけど、お前が言いたい事だろ?」
裕介はしれっとそう言うと、ニヤリと笑った。
康一は、諦めた表情で続けた。
「そう、裕介の言った通りに知り合っちゃったんだよね。知り合っちゃった以上、君が事故ると少なくともここにいる3人、いやオヤジさんも含めて4人か……悲しい思いをする事になるんだ。オマエらの勝手だろって言われちゃったらそれまでだけどさ。だけど、後藤モータースに関わってる人間は、口ではああだこうだ言うけど、みんなお人好しなんだよ。関わった人、みんながハッピーになって貰いたいの。特にバイク絡みでね」
「私は、別にどうでもいいけど?」
遥子が拗ねた表情で言った。まだ、ペンキ屋の態度が気に入らないらしい。確かに、まだペンキ屋は太々しい態度を取り続けている。
話を聞く気はある様だが……
「まぁ、遥子はああ言ってるけどさ。それは置いといて。けどさ、せっかくバイクで知り合ったんだもん。そうでしょ?命削るような走りをしてる人を見て、俺たちは黙ってらんないんだよね」
「俺が命を削っていると言うの?」
ペンキ屋が聞いた。
「うん」
康一は、考えるまでもなくあっけなく答えた。
「なぜ、それがわかる?さっきもそうだ。わかった様な事を言って、偉そうにしてるけどさ」
ペンキ屋がイラつきながら言った。
怒鳴らなくなったあたり、さっきよりマシか……遥子の水掛けが効いたかな……
康一は、そう思いながら遥子を見た。まだペンキ屋を睨んでいる。
「じゃあ、君のバイクを見た僕なりの君の走り方の考察をしようか?多分、裕介も同じように感じてると思うよ。勿論オヤジさんも」
「やってみろよ。聞いてやる」
ペンキ屋が言った。ケンカ腰な物言いなのは変わらないが、遥子の睨みが気になっているようだった。暴力的な感じはもはや無い。
「まず、君は、コーナーを曲がる時は突っ込み重視でしょ?これは2ストだからね。下のトルクがあまり無いから、コーナーを早く回る為には、どうしても突っ込みで速度を稼がなきゃならない。逆に僕たちは立ち上がり重視で回っていくんだ。4スト大排気量車はトルクが太いから、こっちの方が回りやすいし、結果的に早く回れる。まあ、これは佐野くんもわかってる事だと思うけどさ。ある程度バイクに乗っていたら誰でもわかる話だし」
康一は一気に話すと一口コーヒーを飲んで続けた。
「別に突っ込み重視が悪いってわけじゃ無いんだ。だけどね、君のバイクのタイヤを見たら、どうやら、それだけじゃ無いんだよねぇ。相当、ギリギリまでブレーキ我慢してるよね。それで、急激なハードブレーキングしてる」
「なんでそんな事わかる?」
「わかるよ、タイヤの減り方を見れば。もっと言おうか?まあ、ハードブレーキングした後は、勿論フロント荷重になるから、フロントに体重を乗せてるよね?フロントのグリップを上げてフロントを暴れさせないために。で、フロントから回っていくんだけど、今度はアクセルを開けるのがが早いから、リヤが滑るわけだ。特にフロントに体重乗せてるしね。そんな状態でアクセルをガバって開けりゃ、そりゃリアは滑るよ。勿論、トラクションもうまくかからない。で、君はスロットワークやリアブレーキでトラクションコントロールして乗り切ろうとしてるんじゃなくて、リヤを滑らせながら無理矢理回ってる。バイクでドリフトみたいなことをしてるんだ。これを意図的にやってるんならまだ良いけどね。スライドはジムカーナのテクニックにもあるしさ。だけど、君は意図的にやってない。まあ、曲芸だね。感心するよ……良く今までコケなかったもんだ……はっきり言ってヘタクソ」
康一は大きくため息をついた。
次回の更新は17日となります。




